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1-28 齟齬と真意は戀愛なりや?
大人な雰囲気漂うバーのカウンターで、
ダメな大人代表のような露出の高い格好をした女性が
ぐでっと寝るようにカウンターに腕を置き体を倒している。
店に入るや否やそんな後ろ姿が見えて
今日はツイてないかもしれない、と袖野はため息を吐きながら、隣に座った。
「雪雛せんせ。お行儀悪いですう」
「袖野くん!」
声をかけると彼女は体を起こし、赤くなった顔で笑った。
濃い化粧は相変わらず年齢を隠していて、
あり得ないほどの色気を放っていたがその異様な怪しさは逆に誰も寄せ付けないようでもある。
天才官能小説家である彼女だがこうしてみるとセレブな奥様のようだ。
「また一人でこんなとこでそんな格好で…」
袖野はちらりと短いスカートから覗く白い太ももを見ながら呟いた。
とはいえこの店も彼女に教えてもらったものだし、遭遇することも少なくはない。
彼女の担当を外れてからも、度々一緒に飲んだり電話で喋ったりはしている仲だ。
「だぁってさぁー最近全然みんな遊んでくれないんだもん。
でも今日は袖野くんに会えたからよかった」
雪雛はそう言って微笑むと、グラスをぐいっと傾けて飲み干してしまった。
おかわりー!とバーテンに向かって声をかけている。
袖野も横から注文しておいた。
「あんまりうちの子いじめんといてくださいね。
まだ一回も辞表出してない期待の新人なんやから」
袖野から担当を引き継いだ新入社員は、日々変態作家達の餌食になり最近かなりやつれてきているが
いまだに辞めようとしていないだけで最早優秀な人材である。
袖野が苦笑すると雪雛は頬を膨らませる。
「私くらいになると若いってだけでちょっかいだしたくなるのぉ」
「んな迷惑な…」
「それにあんなイイ反応されると色々虐めたくなっちゃうんだもん」
「何してるかは聞きませんからねえ」
ハイパーがつくほどの変態である彼女には
自分も散々手を焼かされたが、美人なお姉さんに遊んでもらえた思い出として胸にしまっておくことにしている。
新人くんもそれくらい開き直れる日が来るといいねと祈るばかりだ。
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