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1-30 齟齬と真意は戀愛なりや?
「そっかぁ。
袖野くんは好きな人しか縛りたくないんだもんね?」
横目で彼女を睨んだが、確かに端的に言えばそうなのかもしれない。
恋愛感情の行き着く先が"縛りたい"であり、誰でもいいという訳ではない。
確かに緊縛は誰が相手でも出来るが、それで自分が満たされる事はないのだ。
「需要と供給は一致しないんでしょうがないです」
好きになった人が縛られたいという性質を持った人だった試しがない袖野は恋愛を諦めていたのだった。
世の中はそういう風にできているのだろう。
「そうかしら?」
「恋愛抜きにして唯一初対面で、
吊るしたらすごく綺麗だろうなーと思った相手が縄抜けの達人だったりとか」
「ああ…なるほど、そうねえ」
袖野の例えに雪雛はくすくすと笑った。
この広い世の中はそういうものなのだ。
運命の相手というものには、そう簡単には巡り合わないようにできていて
社会の波で溺れないように泳いでいれば見つける余裕などないのだろう。
「そっかぁ。じゃあ袖野くん、好きな人いるんだ?」
雪雛の鋭い考察に袖野は眉根を寄せた。
好きな人、好きな人。
何故ミナミの顔が浮かぶのか。
「…いや…例えばの話で……」
「ええーいるんでしょ!今浮かんだでしょ!」
話を濁そうとすると雪雛の人差し指が頬に刺さった。
全く、今日は本当にツイていない。
「いいねえ、いいじゃないのぉ恋バナしましょうよぉ!」
「堪忍…」
雪雛の人差し指つつかれて、袖野は盛大にため息をついたのだった…。
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