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1-31 齟齬と真意は戀愛なりや?

そして雪雛は安定の悪酔いである。 やっとの思いで店から引きずるように連れ出すが雪雛はふらふらして自分ではまっすぐ立つ事ができない。 全くどうしてこう官能小説家達は酒癖が悪いのか。 「ちょっと雪雛せんせえ…ちゃんと歩いてください」 「うっふっふう~もう一軒行こう袖野くん!」 「年考えて発言してくださいって」 袖野はなんとか通りまで出ようと彼女を支えるが体重をかけられているので全く進めない。 ぐでーっと抱きつかれて今にも倒れそうだ。 「ほらパンツ見えますよ!ちゃんと立って!」 彼女の短いスカートの裾を引っ張る。 露出の高いお姉さんに絡まれて通行人の男どもからは羨望の視線を受けるが 代わってやろうかと思う程だった。 「……袖野、さん…?」 不意に名前を呼ばれ、袖野は反射的に顔を上げた。 その先にはギャルに囲まれたミナミの姿があった。 呆然としたようなその表情に袖野は何故か、しまった、と思ってしまったのだ。 「うわーイケメン!たんちゃんの知り合い?」 ギャルの一人がミナミに耳打ちしている。 その派手な装いも、若い気迫も自分が行くことのできない世界で、しかし彼にはあっているように思える。 袖野は複雑な気持ちになり、苦笑を浮かべてしまった。 「あは…恥ずかしいとこ見られちゃったなぁ」 冗談っぽく言うとミナミは開けていた口を閉じた。 「んん~?なにぃ?」 袖野のシャツにしがみつくようにして立っていた雪雛が顔を上げ、ギャル集団を見つけては瞬きを繰り返している。 そしてひそひそしているギャルを見ては、袖野に顔を近づけた。 「なになにぃ?どれが本命なのぉ袖野くん」 にやにやしながら雪雛が顔を寄せて呟いてくる。 「ば…またなに言うとんのあんたはっ!」 「ええ~いいじゃない教えてよぉこういうのが好みだったのぉ?」 「違うっちゅーの」 要らぬ誤解が要らぬ誤解を生んでいる。 袖野はいよいよ天を仰いで泣きたくなったが、 ぐっとこらえて雪雛の頭を掴んで地面を向かせた。 「ごめんなミナミくん。 このおばさん送ってかなあかんから。また」 「ひどぉい誰がおばさんよぉ」 袖野は片手を上げて挨拶すると地面を見たまま暴れ始める雪雛を引っ張って、彼らの前から立ち去った。 呆然としたミナミの顔が、傍らに立つ親しげな女の子が。 ギリギリと心臓が痛むのは、飲みすぎたせいだと言い訳する。

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