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1-34 齟齬と真意は戀愛なりや?

袖野ははっとなって彼の横顔を見つめる。 いくらボンクラとはいえ、彼も恋する一青年なのである。 残酷、なのだろうか。 口に出さないだけで巨乳の姉ちゃんともつれ合っていたのも 本当はショックだったのかもしれない。 「……ミナミくん」 なにを言うつもりなのか。 自分は、恋愛はできない。諦めているではないか。 それなのに、彼に腕を伸ばそうとしている自分がいる。 「……ボクは、ミナミくんに…」 何を、言うつもりなのか。 嫌われたくない。……。 ミナミは俯いたまま、ちらりとこちらを見上げた。 その瞬間、 べしゃりという音と共に視界が真っ黄色になった。 「きゃああああ!!!」 女性の悲鳴が聞こえ、袖野は何が起こったのかわからず目を見開いた。 目の前にいるミナミは頭から生卵を被っている。 それも一個や二個ではなく1パック、いや2パックは被っているだろう。 破けた黄身とドロドロの白身に包まれた彼は、 生まれたばかりの牛を連想させるほど気持ち悪かった。 「ヒェ…ッ」 袖野は思わず一歩後ずさってしまう。 ミナミは暫く俯いたままの姿勢で黙っていたが、やがて顔を上げる。 ぬちゃりと卵と卵の殻が彼の髪の毛から滴った。 「オレ…本当に袖野さんが好きなんです」 真剣な眼差しが、卵の殻と黄色い液体にコーティングされた髪の間から覗いていた。 恐々後ろを振り返ると、階段でつまづいたのか 地面に座り込んでいる女性があわあわと泣きそうな顔をしている。 どうやら転けた拍子に買い物袋をすっ飛ばしてしまったらしい。 「ミナミくん…鳥の巣から卵が…」 袖野は震える指で彼を指差したが、ミナミはまた口を尖らせた。 「またそういうドキドキさせること言って…袖野さんひどい」 「ひどいのはキミだよ!」 即座に突っ込むと女性は泣きながらその場で土下座し始める。 「ひえええ!ごめんなさいごめんなさいいい!」 大声で謝る彼女に、ホーム内は騒然となったのだが 当の本人は濡れた髪に触れながら、雨…?、と呟き袖野を絶望させたのであった…。 「…電車…乗れないネ……」 やはり彼は、安定の、ミナミさんらしい。

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