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1-35 君想えばこそ。
「はぁぁあ…」
電車に揺られながらミナミは深いため息を零した。
仕事で疲れているのはもちろんだが、
一番心に来ているのは想い人袖野のことだ。
あの夜袖野とエンカウントしてエイコたちに促されたように再度告白を試みたが
袖野からのメールはなかなかに返ってき辛くなってしまっていた。
それでも卵雨に降られてしまった自分のためにハンカチを差し出して微笑んでくる彼には
少し期待してもいいのかと思ってしまう。
だがおそらく彼は、みんなに優しいのだ。
あの時も、階段からこけてしまったらしい全然関係ない女性が痛くて地面に這いつくばって泣いてるのを助けていたし
でもそんな彼のことを惚れ直したのも事実であった。
「どうすれば伝わるのかなあ…」
窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。
満員電車にぎゅうぎゅう詰めにされて、
なんだか居場所がないような気にさえなる。
ミナミはため息を零して、袖野さんに会いたいと心の中でつぶやいた。
袖野さん、今何してるかなあ。
自分には想像もつかないような、
ゴージャスで大人でセレブリティなことをしているのかもしれない。
そう思うと自分が少しだけ惨めに思えた。
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