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1-36 君想えばこそ。
がたんと電車が揺れ、
ミナミは窓ガラスに頬が押し付けられるようになってしまう。
「うお」
冷たい温度が頬に触れ思わず声を零してしまう。
狭い。
今日はなんでまたこんなに混んでいるんだろう。
そんなことを思っていると不意に身体を弄る手があった。
明らかに不本意にぶつかっているわけではなく、何かを探すように両手で身体に触れられミナミは眉根を寄せた。
「……ん…?」
何か落し物でもしたのだろうかと思っていると、不意に袖野の声が蘇る。
ちゃんと逃げなあかんよ、と。
以前助けてくれた時言われた言葉だった。
自分は全然平気だったのだが、
あの時の彼は凄く悲しそうな顔をしていた気がする。
それを思うとなんだが凄く嫌な気分になって、
ミナミは逃げようと身を捩った。
「…っい…、やだ…」
抵抗するが腕に力を込められガラスに押し付けられる。
そして口を塞がれてしまった。
「…!?」
尋常ではない事態に流石のミナミでもやばいと思った。
しかし既に遅い。
抑え付けられミナミは完全に自由を奪われてしまった。
怖い。
怖い!
身体が震えるのを感じていると
耳元で見知らぬ声が、大人しくしていろよ、と言った。
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