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1-40 君想えばこそ。

「ちょっと」 男は一瞬振り返ったが、やがて舌打ちをし体全体で押しのけるように袖野の身体にぶつかってきた。 痛っ、と思わず声を零していると風のように男は人混みをすり抜けて逃げて行ってしまった。 「はぁ…?なんやそれ…」 一体なんだったというのか。 この前の朝っぱらからかましていたおっさんが まともに見えてきそうなほどの愛想のなさである。 遺憾に思いながらも袖野はミナミの肩に触れた。 しかし彼もいい加減学習して欲しいものである。 「ミナミくん?大丈夫か?今度は何され…」 怖々と振り返ったミナミの顔を見て袖野は言葉を詰まらせる。 赤くなった顔に、目には涙がたまってカタカタと震えている。 いつもぼけっとしている表情や何にも動じなさそうなボンクラさは無く、 小動物を思わせる怯え方に袖野は思わず彼の肩から手を離した。 「…そで…のさ…」 振り返ったミナミは震える声で呟き、頬に涙を溢しながら どうしたらいいかわからず棒立ちのままだった袖野に抱きついてくる。 「袖野さん…っ袖野さん、そでのさん…っ」 ミナミはぎゅううっと袖野に抱きついたまま今にも消えそうな濡れた声で呟き続ける。 袖野は迷いながらも、おずおずと彼の背中に触れた。 「大丈夫…もう大丈夫やで……」 思ったよりも彼の背中は小さく、 ボサっと跳ねているような髪の毛は細くて柔らかくて。 子どもみたいにぐすぐすと鼻を鳴らして泣く彼に、 袖野は自分の中で沸き起こる感情を押し殺そうと努めるのに必死だった。

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