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1-43 突撃!隣の緊縛師

「とりあえず入って」 「えっ…袖野さんのお家…」 「あーもうそういうのいいからはやく」 なぜか一瞬嬉しそうにニヤッとした彼を引っ張って部屋に雪崩れ込む。 断じて連れ込んだ訳ではない。断じて。 袖野は誰にともなく言い訳しながらも、 食事も睡眠も仕事も全て行っている唯一にして最大の部屋に彼を上げ 一先ず床はあんまりかと思いベッドに座らせた。 しかしここから先はノープランである。 赤い顔で苦しそうに呼吸をするミナミを見下ろし腕を組む。 「はあ…。とりあえず、水やな。うん」 袖野はそう言ってキッチンに向かおうと歩き出したが、 ぐいっと体を引っ張られ阻止される。 「袖野さん…あの…」 ミナミは潤んだ瞳で見上げてきて、何か言いたげに口を開く。 一体何を言い出すのかと思わず身構えてしまったが ミナミは、その…えっと…、ともごもごしている。 袖野は仕方なくかがみ込んで彼と目線を合わせた。 「何?」 なるべく優しい声で聞いてやると、 ミナミは眉間に皺を寄せてまた泣きそうな顔をする。 「あの…服……、汚してごめんなさい…」 いつもは微塵も見ないような、弱気な声で呟かれ 袖野は一瞬頭が真っ白になった。 服汚してごめんなさい服汚してごめんなさい… 言葉が頭の中でこだまし、 やっとさっき抱き着かれて鼻水と涙だらけにされたシャツのことを言っているのだと思い至った時には 袖野は彼の頬に指を這わせていた。 「…オレいつも…袖野さんにメーワクかけてて…」 ミナミは、はぁ、と熱っぽい吐息を零し少し怯えたように見上げてくる。

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