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1-48 好きなコ

「ほくとさん」 「わかる…顔も見たくないよな。 ごめんで済むとは思ってないし今後2度と近」 「ほくとさん!」 名前を呼ばれ、袖野は口を閉ざし殴られるのを覚悟し奥歯を噛み締めて顔を上げた。 しかしミナミは何故かでれでれと笑っていた。 「えっへへへ…ほくとさんって呼べるのなんか嬉しいっす」 「…はい?」 全然関係ないことを言い始められ瞬きを繰り返す。 ショックすぎて頭がおかしくなってしまったのだろうか。 まあ彼は元からこんな感じではあるのだが。 しかし今回ばかりは彼のボンクラさに甘えるわけにはいかない。 なんとか彼にわかってもらおうと彼の両肩を掴んだ。 「ミナミくんあのな」 「ほくとさん、今好きって言ってくれました?」 「え?」 「好きなコ縛りたくなるって言ったでしょ」 ミナミはぼんやりとした表情を嬉しげに染めてこちらをじっと見てくる。 わかっているのかわかっていないのか、 分からない彼に袖野はまじまじと彼を見つめてしまった。 だが、ちゃんと伝えなくてはならない。 彼に嫌われても、好きだから縛ってしまい 好きだから襲ってしまったのは事実だから。 「そう…なんや…ミナミくんが…、好きやから、 好き…なのに」 なのに、どうしてなんだろう。 普通に気持ちを伝えるだけでは済ませられない。 拗らせた結果こんなことになる。 袖野は泣きそうなのを堪え両手を握り締めた。

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