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1-49 好きなコ

しかしミナミはにこにこしていた。 「オレたち大人の階段登っちゃいましたね!」 そんなことを言うミナミに 袖野は思考がショートしそうになった。 「ええ…そんな文学的表現で…」 あのアブノーマルな世界を大人の階段で済ませていいのか。 寧ろ"怪談"と言っても過言ではなかったのに。 あの最大の原因を、 もしかして彼は受け入れているのだろうか。 「ほくとさん、オレほくとさんが好きです」 ミナミはさらりとまた告白すると、 呆然としていた袖野の唇を奪ってきた。 ちゅ、と音を立てたキスは幼稚で稚拙で。 それでも、へへ、と嬉しそうに笑うミナミが アホとかボンクラを通り越して、聖人のように思えた。 「…何でなん…?痛かったやろ…怖かったやろ…? 嫌、だった…と…」 なんでそんな受け入れているように笑うのか。 ミナミは、うーん、と唸っては自分の体に残る痕に触れた。 「こういうことされたの初めてですけど、嫌ではなかったですよ。 むしろ嬉しかったっす。 だって、オレのこと好きだからしてくれたんでしょ」 ミナミはそう言って言葉通り嬉しそうにするので。 寛大なのか、マスターボンクラなのか。 それとも自分がしがらみに捕らわれすぎているのか。 その無邪気な笑顔を見つめるとどうでもよくなり始めている自分は、 ただ只管不甲斐ない悪い大人なのかもしれない。
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