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2-9 野生の変態

一応芸能人だし人目がつくところはよくないだろう。 とあれこれ模索しながら、静かでいい雰囲気のラウンジに連れてきてしまった。 ゆりえは大人しくなってずっと裾を掴んだままついてきて、 椅子を促すと静かに腰を下ろした。 「…えーっと……オレンジジュースを」 酒を飲ますと怖いのでそんな注文をしたがゆりえは何も異論しなかった。 飲み物が運ばれてきてもゆりえは俯いて黙っているので、 袖野は帰って寝たいと思いながらも奇行に走られても困るので とりあえず彼女に視線を注いでやることにした。 「...私、本当はMなの。ドMなの」 変態編集共の予想はあっていたらしい。 ゆりえの突然の告白に袖野は、そうなんですね、としか言えなかった。 「でも... 今度の写真集で、DVDをつけることになったんだけど それで..10分間罵倒し続けたり、鞭で男優さんを叩いたりしなくちゃいけないって決まったのをさっき知って... そんなの....そんなの怖くて...怖くてできないよおぉおおぉ!」 ゆりえはそう言って叫び、机に突っ伏して泣き始めた。 ああ、そういうことか。と袖野はどんな顔をしていいのかと悩んだ。 「私...っ顔のせいでSキャラみたいに売り出してるけど... それが本当は辛くて...、っでもお仕事だから... お仕事も好きだから...私どうしたらいいかわからなくて」 ゆりえは泣きじゃくりながらオレンジジュースを手にとってはごくごくと飲み始めた。 その気持ちはなんとなくわからないでもなかった。 同じく自分の本質をひた隠している身で、それはとても窮屈に感じてしまうことだから。 不意に彼女が可哀想に思えてしまって、震える小さな頭に触れてしまった。 「そっか...それは辛かったな」 彼女は、同じ痛みを抱えているものだ。 一般とはかけ離れ社会の爪弾き者のように思えてしまうほど異質なものを抱えている。 それをひた隠し、どこにも発散できないまま不満を募らせ無理をする。 「自分を偽るのは、辛いよな...」 ゆりえはおとなしく頭を撫でられていた。

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