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2-10 野生の変態

「でもな、ああいうこと女の子がやすやすと口にしてええもんじゃないですよ こういうわけわからんおっさんには特に。 いくらドMでも体は大事にせな」 ゆりえの頭から手を離し、苦笑する。 彼女は、ごめんなさい...、と小さく謝りながらもちらりとこちらを見上げてきた。 彼女はまだまだ若いし、綺麗だし、 何もこんな崖っぷちのおっさんに頭を下げなくとも喜んで鞭を振るう輩はいるだろうに。 よっぽど切羽詰まっていたに違いない。 「..でも袖野さんはわけわからんおっさんなんかじゃないもん..」 「ああそう?」 「そうよっ私、袖野さんのこと....」 ゆりえは腕を掴んできたが、やがて顔を真っ赤にしてまた俯いてしまった。 ああ。こらあかん。 袖野は何も解決していないどころか悪化していることを思い知った。 「....袖野さんに縛って欲しいのは本当だよ」 小さな声がそう呟き、どうしたものかと天井を見上げながら考えた。 不意にミナミの顔が思い浮かんで、ふ、と笑ってしまう。 「仕事以外ではなぁ、好きなコしか縛りたくないんだよねえ」 「....え?」 今更美麗なドM嬢に出会ったところで時すでに遅しであった。 自分には、おそらく1億人に1人の逸材であろう超銀河的思想の恋人がいるのだから。 彼を想って瞳孔の開いた横顔を晒していた袖野は、 ぽかんとこちらを見上げているゆりえに気付き慌てて微笑みを浮かべた。 「送っていこか」 本当はめちゃくちゃにしたいけれど、大事にしたいと思う気持ちも強い。 ミナミは何も言わないだろうけど、 袖野は少なからず自分の方が大人なのだからと自制していた。 受け入れてくれた事が奇跡に近いのだ。 それだけでどれほど救われているというのか。 自分の欲望と合った人材を探すのは楽かもしれない。 でもきっと彼女もいつか、そうやって我慢するのも心地よいと感じられるような人に出会えるはずだ。 袖野は異常性癖の先駆者として、 彼女が犯罪者になる前に救えれば良いと思いながらも 再び彼女の頭を撫でてやったのであった。

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