65 / 92

2-13 大人あるある

この事をきっかけに、 袖野は締め切りである2日後まで 上江と編集室にこもる羽目になってしまった。 全くギリギリの思いつきもやめてほしいものであるという文句も 下の者は堂々と言う権利すらない。 恋愛どころかたい焼きの事すら考えられなくなってしまった2日目の昼間に ようやく選出と編集を終え、 いつにもまして血色の悪い顔を晒した上江がふらふらの足取りで印刷所へ向かったのを見送り 袖野は青い空を眺めて、終わった...、と 無意味な充足感と疲労の中にやっとの事で立っていた。 編集社の裏手にある公園で缶コーヒーを片手に、通知が来てはひっくり返していた携帯端末の電源を入れた。 ラインが凄まじい事になっていた。 その主な内容はゆりえからの誘いやよくわからない女子力アピールのメッセージであったので さらさらと一括既読にしては忙しくて云々という謝罪を送っておいた。 意外にミナミからは少なく、 最後は例のナイフを持ったウサギのスタンプで締めくくられていて恐怖であるが、 なんだか懐かしいような気さえして 袖野はクスクスと笑ってしまうのだった。 「ああ.....どうやったらミナミくんのご機嫌治るんやろか」 ちゃんと考えてちゃんと機嫌を直してやりたいところではあるが、今は疲労のピークである。 そうこうしていると、にゃーと高い声が聞こえ、足元に茶色い毛並みのネコがじゃれついてきていた。 「なんやーこの疲れたおっさんを癒してくれるんかー」 ネコを抱き上げて撫でてやると、 喉をゴロゴロ鳴らして心地よさそうにしてくれる。 毛のボサボサ加減がミナミを思い起こされて、じっとその瞳を見つめてしまう。 不意に頭のどこかがくらくらして、右手の指先がぴくりと柔らかい肢体を掴んだ。 一瞬我を失いそうになってしまい、 袖野は慌ててネコをベンチの上におろした。 「.....ん、ああ...あかん...さすがにネコはいかんな...いかんいかん」 自分は相当疲れているらしい。 それも仕方ないのだが、やっぱりミナミのこともちゃんと考えてやらなければいけないだろう。 彼は大事にしてあげたいのだ。 「眠い....とりあえず寝な....」 袖野は両手で顔を覆いながら欠伸を噛み殺した。 早く帰ってきて上江ちゃん..... おじさんはもう限界です。

ともだちにシェアしよう!