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2-17 大人あるある
結局オレは、ほくとさんに助けられている。
手を引っ張られながらミナミはなんとか涙を引っ込めようとするのだが、
止め方が分からずにぐすぐすと泣きじゃくったまま歩いていた。
彼の背中は何も言わないから、それが少し怖くて握られた手のひらを握り返す。
「....ほくとさん....怒ってる...?」
恐る恐る話しかけると、袖野は振り返って苦笑した。
「怒らせたんはボクじゃないの?」
「....?」
彼の質問にミナミは首を捻った。
数秒考えてさっき怒っているのかと聞かれたことを思い出した。
「オレは別に怒ってないです」
「そうなん?
..急にラインが素っ気なくなったから愛想つかされたのかと思った」
「......あれは、真壁課長の真似です」
「ええ....」
最近絵文字大爆発なメッセージも、
頼れる男真壁課長風に変えてみたのだった。
しかしそうなってくるとなかなか回数を増やすことができないし、
それが大人というものなのだろうかと思い悩んでいたのだった。
でも怒っていると勘違いされたらしい。
「...頼れる、大人に、なりたくて..」
そう呟きながらも、どうしてこう上手くいかないんだろうとまた涙が込み上がってきてしまう。
バカな恋人に呆れているだろうか。
そう思うと彼の顔を見れなくて、ミナミは俯いた。
「はぁ....人がどんな思いで.....」
ぼそりと袖野は呟き、また再び前を向いてしまった。
ミナミは何も言えなくなってしまい、とても逃げたくなったが彼の手を離すことができなくて。
「…ミナミくんのいう大人がどういうのかもわからんし、
なんでなりたいのかもわからんけどな
ボクは、いつも通りで、そのままでいて欲しい」
彼の言葉にミナミは瞬きをした。
「...え..?」
それきり、彼は何も言わなくなってしまって
仕方なくミナミは黙っていることにした。
もっとしっかりしろとか、散々言われるのに
そのままでいて欲しいだなんて言われたことはなかったから。
なんだかこそばゆい気がして唇を噛んでいた。
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