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2-37 好きな人

「......鈕」 「ごめん...なさい...っ」 なぜか謝る彼の頬を撫でるが涙は溢れ続けていて。 そんな風に不安になってもらえるほど大したものではないというのに、と 自虐的に思いながらも手首の縄を再び強く縛りあげた。 「僕は、鈕。君のことを愛している」 縄が食い込む手首に口付けた。 「でも僕はねえ、つまんねー大人だから 仕事だって言われれば別に好きでもない女だろーが好みでもない奴だろーが幾らでも縛り上げるし幾らでも鴨居に吊るすよ。 聞き分けがいいフリしてさ。 自分勝手な君への欲望だってこれでも抑えてるんだよ? 本当は君を独り占めしたいし…本当は誰にも触れさせたくない…」 ミナミはきょとんとした表情で袖野を見つめていたが やがて目を開き顔を赤くし始める。 「自由奪って痕付けて僕だけのモノにしてやりたい。 僕だけしか見えなくしてやりたい…」 掌に口付けて、歯を立てるとぴくりと彼の指が震えた。 こんなおぞましい程の感情を、自分が他人に対して抱いてしまう日が来るとは思わなかった。 「....怖い?」 守ってやりたいのに、壊してしまいそうな。 こんなことはきっと歪んでる。 そう思うのだけれど、 ミナミは首を振って滲んだ瞳をさらに滲ませてへにゃりと笑った。 「おれ...オレも、ほくとさんのこと独り占めしたい... だからこれって...えと... らぶらぶ、っすね...」 そんなこの光景におよそ不釣り合いな言葉で 片付けてしまえるというのだから。

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