91 / 92
2-39 好きな人
「...無理させたね…ごめんね…」
彼の頭を撫で、優しく抱きしめる。
若干の自己嫌悪と、それでも彼に赦してもらえるこの瞬間の恍惚に浸って。
縛っていた縄を解きながらよしよしと頭を撫で続けると
彼は頬擦りするようにこちらの胸に顔をくっつけてくる。
「痛かったね」
「…ん…」
彼の身体を横たえながら、残りの縄を取っ払っていくと、
赤い痕が肌に残っていて、思わず撫でてしまうと敏感になっているらしい彼の身体はビクッと反射で震えた。
「ほ....く、とさ....」
呂律の回らない舌でミナミは呟いた。
「ん..?」
「....おれ..おれも、その..あい...」
ぼそぼそと何か言い淀んでいる彼を見上げると
顔を真っ赤にして変な顔をしていたから
袖野は縄を解いてやりながら必死に笑いをこらえていた。
「なに?」
「....っ、恥ずかしいぃ!」
ミナミにも羞恥心はあったらしく、両手で顔を覆いはじめた。
「言ってよ」
そう言いながらもまだどこかふらふらしている彼の身体を抱きしめるように支えながら結び目を解く。
「...あ、い、して、..ます」
指の隙間から見つめられながら、弱々しい声で呟かれ
また欲情してしまいそうで袖野は微笑み彼の頭を撫でた。
「ありがとう」
自由になっていっても彼の身体には赤い痕が張り巡らされ
ぞっとするほどの己の傲慢さを感じながらも
その美しさにはため息が溢れてしまうのだった。
「ミナミくんは、綺麗だね」
呟きながら痕をなぞるように肌に口付けた。
ミナミは何故かキョトンとしていて、
一体何をどういう風に受け取って何を考えているかはわからなかったが
それでいい気がした。
「ほくとさんの方が綺麗っすよ」
「...ええ、初めて言われた.....」
「歯並び」
「歯並びかい!」
当てはまらなくても、同じでなくても
同じじゃないからこそ、きっと凄く愛おしいから。
ともだちにシェアしよう!