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3-1 掃き溜めにうさぎ

「……変態にも思い悩むことってあるんですね」 ぽつりと吐き捨てるようにこぼされたひと言に、編集部の中は凍りついた。 顔を上げると、たった今電話の受話器を置いたらしい上江衿が冷ややかな表情で天井を見つめていた。 一体ここがどこかわかって彼は言っているのだろうか。 ここはいわゆるエロ小説を寄せて集めて本にし全国にばら撒くことを目的として作られた 変態製造工場といっても過言ではない場所なのである。 答えは多分、彼は分かって言っているのだろう。 社長賞並みの功績を残している敏腕編集である上江は この変態製造工場にこき使われるあまり、怒りを通り越し虚しささえ感じているのかもしれない。 「.....だ....大丈夫?」 誰もが目を逸らす中、袖野は堪らず声をかけてしまった。 おそらく担当作家にまたよくわからない言い訳でもされたのだろう。 上江はこちらを見もせずに、はぁ、とため息のような返事を零し ふらふらと去っていってしまった。 パタンと閉じられたドアの音を最後に、編集部内はシーンと静まり返る。 「こっわ」 隣の席の変態その1が肩を竦めながら呟いた。 その意見には同意せざるを得ない。 上江はたいそう真面目で、この変態の吹き溜まりには珍しく キリキリキビキビと働く男ではあるのだが 時々ネジがどこかへ行くのか限りなく黒いオーラを漂わせ ため息ひとつで魔界を呼び寄せそうななにかを持っているので、そのモードの時はそっとしておくのが賢明である。

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