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3-3 掃き溜めにうさぎ
毎度のごとくミナミはご機嫌だった。
大体の毎日がふつうでふつうに過ぎていくのだが
恋人に会える日は別だ。
勝手にテンションが上がって年甲斐もなくスキップしたりしてしまう。
ミナミは恋人の待つ駅で満員電車から脱出し、軽快に階段を駆け上がっていった。
改札を出るときっぷ売り場の横に背の高いスーツ姿の恋人の姿が見えて
ミナミは思わず小学生のように駆け寄ってしまうのだった。
「ほくとさん!お待たせしました!」
走り寄ると同時に叫ぶと袖野はこちらに気付き微笑んだ。
その爽やかなスマイルは2日ほど前に見たきりだったので
ミナミは栄養を補給するような気分になるのであった。
「お疲れ。…って何持ってるん?」
「傘!」
ミナミは鞄とは逆の手で持っていた長い棒のようなものを掲げてみせた。
傘のつもりで会社から持ってきていたのだがいつのまにかそれは緑色のものに変わっていた。
長ネギであった。
「あれ?ちがった」
「いや、ネギて!!!そもそも今日雨降ってへんし!」
「間違っちゃいました」
ヘラっと笑う程度にミナミにとって傘とネギが入れ替わることくらいふつうのことであったのだが
袖野はゲラゲラ笑っている。
「あーやばそれで電車乗ってるミナミくん見たかったー」
「?じゃあ次も持ってきますね」
「いやわざわざ持ってこんでええから!」
こんなことでも笑ってくれる恋人が大好きで
ミナミはまた勝手に幸せになりながらネギを握りしめるのであった。
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