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4-8 お荷物課の日常

ミナミは、若きやり手課長真壁が率いる新事業の開発部署に所属していた。 会社の謎の意向で突然立ち上げられたこの部署は 一応は新事業のためのシステム開発や企画を構築するような業務内容のはずだったが 専ら他部署の雑用係と化し、お荷物課と揶揄されている始末だ。 というのも、いくら新規事業案を提案したとて予算の都合などで却下されたり、よく分からない難癖を付けられ企画案が通った試しがない。 部署立ち上げから2年が経とうとしているものの、実績をイマイチ残せていない事からもお荷物課という名前が定着しつつあるのだった。 「どーせやりたいことできない系っすよね…」 ミナミが苦笑すると、隣の席で真壁は頷いた。 「ある程度枠組みはあるからこの通りにやりゃいいと言われたが…そもそも雑すぎるんだよな…」 ミナミは、仕事というのは、正解のない世界で正解を作っていくものだと思っていたが 実際は誰かの中にある正解を察して掬い上げる事なのだと感じてやまない。 それは学校で、自由に書いていいよ、と言われた作文や絵のように。 自分の表現したい事よりも、大人の気に入りそうな答えを考えて動かなければならないのだ。 上司の真壁は、切れ長のキリッとした目で恐らくはしょうもないであろう資料を熱心に見つめていて 今その頭の中でどういう事が考えられているのかミナミは知りたい気がした。 彼がいろんな人間から言われるままに自分を捻じ曲げて、無理矢理合わせたりせずに 一から組み立てたら、どうなるんだろうといつも考えてしまう。 それは同じ部署の雨咲にも裾川にも言える事だった。 「しょうがない…雨咲が戻って来たらちょっと話しましょう…」 「はぁーい」 真壁の言葉に裾川はだるそうに背もたれにもたれ掛かりながら返事を返している。 もしも、なんの制限もない世界で彼らと話せたら。 ミナミはそんな事をいつも思ってしまうのだ。 「いいな?ミナミ…」 真壁に、ちゃんと聞いてたのか、というような顔を向けられて ミナミは肩を竦めながら頷いた。 「おけっす」

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