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4-9 GRAVITY
大人になって出来ることは無限になったと思う。
一人で暮らして、好きなものを食べて、
余暇にはどこに行ってもいいし、誰を好きになっても、好きになるだけなら犯罪にはならない。
何を考えたって話さなければいい。
そう、喉の奥から出しさえしなければいい。
つい口が滑っておかしいと言われたって、笑って誤魔化せばなんとかかなる。
なんちゃってー、とか言って。
そういうスキルが随分と身について、自分は少々大人になれているとミナミは思っていた。
だけどやっぱり時々、心が窮屈を感じて、同じように窮屈に感じていそうな誰かを見ると
どうにも居た堪れなく思ってしまうのだ。
一緒に飛び上がって、無重力の世界に行ってみたくなる。
ふわふわと浮いて、小さくなった地球を見下ろしながら
面白いと思える事をこっそり共有して、笑い合ってみたくなる。
だけどきっと、それはなんとなくやってはいけない事だし
きっと理解して貰えないだろうとも思っていた。
優しい人たちは分からないなりに、そっか、と頷いてくれるだろうけど。
困らせたいわけでも、悲しませたいわけでもないから。
本当にただ、笑っていて、できれば自分に関わっていて欲しいだけ。
ミナミはそんな風に周りの人達の事が好きだったし、そんな人達に囲まれている環境は幸福だと思えていた。
誰かを恋愛的に好きになれているのだって、その人と恋人になってしまったのだって本当に奇跡だと思っている。
だから、多くは望まないようにしているし、そもそも一緒にいられるだけで
それ以上なんて浮かんですらこないし、そうじゃなくたってあんまり望んではいけないと思っている。
“そのままでいい”って言ってくれているあの人が、
呆れて遠くへ行ってしまわないようにする為にはどうすればいいんだろう。
無重力に行く前に、重力のあるこの世界で生きるあの人に
手を離されてしまったら、自分はふわふわと風船みたいに一人でどこまでも行ってしまって
もう二度と戻って来れないんじゃないかと。
時々、そんな風に思えてならなかった。
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