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4-18 毒を喰らわば

運命の人がいるのだとしたら、そいつのために自分は歪んでいるのかと思っていた時があった。 たった一人の許してくれる誰かをこの広大な世界から見つけ出しなさいと言われているみたいで。 それを希望と捉える人もいるけど、拗らせていた所為かとてもそうは思えなかった。 初めて人間が吊るされているのを見た時は、子どもだったからさすがに怖かったけど その人間の恍惚とした表情や、息遣い、紅潮した肌にすぐに釘付けになった。 「せんせぇ…」 吊られている人間は恥ずかしそうに頬を染めながら、涙で滲んだ瞳でこちらを見た後 古めかしい和風家屋の畳の上で煙草を吸っているその背中を呼んだ。 「うるせえなぁ…一人で勝手にイけよ…」 煙草を吸いながら女はガリガリと頭を掻いて吐き捨てている。 「ちがうの…」 「あぁ?」 「子どもが…見ています…」 女は振り返り、こちらに気付くと障子戸を閉めて目を三角にして見下ろしてくる。 「おいお前…どっから入り込んだ…」 「ぼくじゃなくてボールが入り込んだんやもん。 それよか今の何?」 「なんでもいいだろガキの知ることじゃねえ。とっとと帰れ」 目付きも口も悪い彼女がなんだか面白くて、このままでは引き下がれないような気持ちになってしまったものだ。 「えー。今見たこと、言いふらしたってもええねんで」 「…ッチ…ガキが…」 女はため息を溢しながら縁側にしゃがみ込んで睨んでくる。 「なにが目的だ?金か?」 「いらんそんなもん…今のもっかいみたい」 「だめだ。ガキには早い。18禁だ」 「エロい目ではみてへんもん」 「嘘つけボケが!」 「あの……私、いいですよ…?」 「黙ってろ変態!!」 それが、緊縛と師匠に出会った時だ。 結局あの女の人と師匠がどういう関係だったのかは知る由も無かったし、 今思うとあんなやばい大人によく懐いたなと我ながら思うけど。 もしもあの人に出会ってなくても、あの世界に惹かれてしまう性質だったのだとしたら あの人に教わってよかったと思ったことは数知れない。 「いいか。相手殺しちまったらお前も死ねよ。 欲求で人を傷付けるって事はそういう覚悟の上だ」

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