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第17話

 前戯はいつも、キスから始まる。  先ほどまでタバコを咥えていた男の、唇の苦みにも、もう慣れた。 「舌を出せ」  バリトンの声に促され、(あずさ)は男へと舌を差し出した。 「良い子だ」  くしゃりと、目尻にしわを寄せて。  漆黒(しっこく)が、梓の舌を舐めた。  ぬるり、ぬるりと(ねぶ)られ、吸われる。  それだけで、梓の腰は震えた。  梓は、漆黒の体を跨ぐ形で、彼の太ももの上に座っている。  向かい合わせで口づけをする男は、襦袢の前を広げており、男らしい胸板から続く逞しい腹筋、そして、その下の黒々とした茂みに息づく性器までもを、露わにしていた。  彼に跨る梓は、全裸だ。 「後ろは、綺麗にしてきたか?」 「は、はい」  漆黒の問いに、梓は頷いた。  準備の仕方は、この男に教わった。  キスの仕方も。  奉仕の、仕方も……。 「どれ……」  漆黒の手が、梓の尻の丸みを撫でた。  そのまま、節の高いごつりとした指が、梓の言葉を確かめるようにすぼまりをくすぐる。  梓が自分の指でほぐしたそこに、男の指先が埋められた。  昨日は張り型で広げられたそこを、自分の手で弄るのはやはり難易度が高くて。  中を清めることはできても、きちんと潤すことはできていなかった。  そのことを、孔の感触で確かめた漆黒が、ちゅ、と目尻にキスを落として。 「まだ硬いな」  と独り()ちるように指摘してくる。 「す、すみません……」  うまくできなかったことを詫びた梓へと、男がやわらかな笑みを向けてきた。 「梓」 「は、はい……」 「とろとろにしてやるから、そんなに緊張するな」    耳元で囁く声は、甘くて。  梓の腰が、また痺れた。  漆黒のてのひらが、梓の白い肌の上を這う。  健康的なその皮膚の色と己のそれとのコントラストが、2人を別の生き物のように錯覚させた。  筋張った、大人の男の腕が、梓の体を少し持ち上げて、膝立ちにさせる。  梓の目線が上がった分、漆黒のそれは下がり、彼の唇の前にはちょうど、ピンクの胸の粒が差し出される形となった。  ささやかな胸の突起は、ここに来た日から毎日弄られている。  最初に、性器と一緒に愛撫されたからだろうか……乳首と陰茎の神経が繋がってしまったかのように、梓はそこをくにくにと触られると勃起してしまうのだった。  いまも、漆黒が指先でカリカリ引っ掻いてくるので、肩が勝手に跳ねてしまっている。 「あ、あ、あ……」  我慢ができずに、梓は体をくねらせた。 「ちょっと触られただけでビンビンだな」  笑いを含んだ男の声が、そう言って。  言葉通りぷっくりと腫れた乳首をねろりと舐めた。 「ああっ、あっ、あっ」  片方の粒は指でこよりでも作るように捏ねられ、反対側はじゅるじゅると音を立てて吸われる。  梓の性器はゆるゆると勃ち上がってゆき、先端からは、つー……と淫液が滴った。    空いていた漆黒の右手が、片手で器用に丸い容器のふたを外し、中を満たしていた香油をどろりと指の腹で掬い上げる。  ふわり、と甘い花の香が漂った。  ぬちゅ、ぬちゅ、と後孔にそれが塗り込まれる。  梓は唇を噛んで、胸の前の漆黒の頭を抱きしめるようにして縋りついた。 「なんだ、おねだりか?」 「ち、ちがいま、あ、ああっ」 「そうやって素直に声出しとけ。我慢するなよ?」  念を押すようにそう言われたが、一度開いた唇をまた閉ざすことは難しくて……我慢など、しようと思ってももうできなかった。  じゅっ、じゅっ、と乳暈ごと吸われた乳首の先に、軽く歯を当てられる。  かと思うと、反対の乳首を伸ばされ、舌の動きと連動したかのような指の腹で、くにくにと撫でられた。  梓の後ろに潜り込んだ指は、何度も隘路を往復してぬるぬるのオイルを(まぶ)してゆく。 「あっ、あんっ、あっ、あっ、あっ」 「気持ちいいか?」 「は、はい……あ、ああっ」 「気持ちいいって、言ってみろ」  低い声に促され、梓はごくりと喉を鳴らしてから、その言葉を舌に乗せた。 「き、きもち、いいですっ、あ、あぅっ、い、いいっ、きもちいいっ」 「そのままちゃんと、膝で立ってろよ?」  言うなり、男の指が二本に増やされた。  器用に動くそれに、中を探られて……梓はビクンと体を跳ねさせた。  漆黒の手が、的確に前立腺を押してくる。  梓の後孔でくの字に曲げられた指が、くちゅくちゅくちゅくちゅと水音を立てながら激しく動かされた。 「ああーっ、あっ、ああっ、だ、だめっ」  逃げをうつ腰を左腕でホールドされて。  梓は悶えた。  シーツの上を膝が滑る。  姿勢を保っていられない。  梓は男の少し硬い感触の髪に指を絡めた。  梓の胸に抱き込まれる形になった漆黒は、口で赤みを増した突起への愛撫を続けると同時に、手淫で梓を翻弄してくる。 「し、漆黒、さんっ、あっ、ああっ、だ、だめっ、だめっ」 「梓。いい、の間違いだろ?」  胸の飾りを挟んでいた唇が、笑みの形に歪むのがわかった。 「ひぁっ、ああーっ、あ、い、いいっ、いいっ」  いい、と声に出すと全身がより敏感になったような気がして、梓は恐ろしくなった。  もう、どこを触られても気持ちいい。  どうすればいいのだろうか。  解放は目の前まで迫っていて……。  こんな……乳首と後ろを弄られただけで達してしまいそうなんて、梓はおかしいのではないだろうか。  漆黒に、おかしいと、思われないだろうか。  そんな不安とは裏腹に、触れられもしない内から限界まで高められてしまった性器は、天を突いて泣いていた。  時折、ひくり、ひくりと動くその先端からは、透明な雫が落ちていて……。  来る、と思った瞬間に、漆黒の指が一番感じる場所を立て続けに擦って来た。  ブルブルと内腿(うちもも)が痙攣し、梓は背を弓なりに反らせた。 「ああーっ、あっ、ひっ……」  白濁が爆ぜて、漆黒の腹部を汚した。  達した瞬間に、男の指を思い切り食い締めてしまい、その形をリアルに感じる。  漆黒の二本の指は、梓の中の具合を確かめるように、しばらくそのままで留まっていた。  やがて、快感の波が引きかけた頃に、ずるり、と梓の中から漆黒が指を抜いた。  香油がぬらぬらと光るそれを、襦袢で適当に拭った男が、漆黒に縋ることでなんとか体勢を保っている梓の両脇を抱え上げ、自分の太ももの上に座らせた。  呼吸を整えながらへたりこんだ梓の目に、漆黒の下腹部が映る。  綺麗に割れた腹筋の下で、男の大きなペニスがゆるく勃起していた。 「できるか?」  なにを、と言わずに尋ねられ、その意図を察した梓は、こくりと頷く。 「無理するなよ?」  重ねてそう言われ、梓は思わず笑ってしまった。  やさしい男だと、そう思う。    梓は自分を気持ちよくしてくれた漆黒の手を引き寄せて、そのてのひらに、ちゅ、とキスを落としてから、体の位置をずり下げ、漆黒の牡へと舌を差し出した。     

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