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第18話

 (あずさ)のやわらかな髪が、さらりと揺れる。  小さな口からは、赤い舌先が覗き。  それが、漆黒(しっこく)のペニスを舐めた。  両手の指で、恐る恐るというようにまださほど猛っていない男根を持ち、幹の部分に舌を這わせる。  そのやわらかな感触は、(つたな)くて。  漆黒は、梓の髪に指を絡め、あやすように撫でた。  梓が、ちらと顔を上げ、漆黒の顔を見上げてくる。  上目遣いになった表情は、幼い中にも色香が溶けて、アンバランスな危うさがあった。  さら、さら、と頭を撫でながら、漆黒は蜂須(ハチス)の引き出しから手に入れた紙片の内容に思いを馳せる。  涼香(すずか)の、右肩上がりの細い文字が並ぶ、折りたたまれた小さな紙。  それを漆黒は、梓が風呂に入っている間に読んだ。  そこには、関東一円を取り仕切る暴力団長沼組……の二次団体である鬼頭(きとう)組の若頭、佐和山が、淫花廓の楼主に接触した、と書かれていた。  いつ、という記載はなかったが、涼香が淫花廓を訪れたのが昨夜であることを(かんが)みても、ここ最近の情報であることがわかる。  佐和山は長沼組の組長にも可愛がられているという噂だ。  そんな大物と楼主が繋がっているのか……。  ざり、と顎髭を撫でながら、漆黒はもうひとつの文章を読み、眉を顰めた。  鬼頭組とここ数年小競り合いをしていた柴野組が、和睦交渉に向けて動いているらしい。鬼頭と柴野とは縄張りが近いことから、揉め事が起こるのは日常茶飯事であった。  しかし、ここ数年は脱法ハーブや覚せい剤などの取引を巡り、争いが激化していたようだ。  何人かは死人も出ているとのことで、組織犯罪対策部の人間もピリピリしていたのだが、ここにきて突然の和解案が浮上した。  どうやら、両組織の組長の間で秘密裏になにかの取引があったらしい。  柴野組が長沼組の傘下に入る、という噂も流れているようだが、その真偽は不明のままであった。  どちらにせよ近日中に大きな動きがあるだろうと、組対(そたい)の人間も他所の組も鬼頭と柴野の動きに注視している中、渦中の鬼頭組の中心人物である佐和山が、楼主の元を訪れたのだから、この件に無関係とは言えないだろう、という予測がついた。  簡潔な文章が綴られたその紙を、漆黒はこまかくちぎってトイレに流した。    佐和山と楼主の間でどんな取引がなされたのか。  淫花廓は、この暴力団同士のいざこざに、どう絡んでいるのか……。  それを知るには、漆黒の手持ちのカードが少なすぎる。  内部に潜ったはいいが、得られる情報は皆無と言って良く、これなら外からの捜査の方がまだ益があるのではないかと、漆黒は自嘲に唇を歪めた。    しかし、タイミング的に見逃せないものが、ひとつ、頭の隅に引っ掛かった。  漆黒はその引っ掛かりを手繰り寄せる。  手繰り寄せた先には、四日前に漆黒へと預けられた、梓の姿があった。  ひと月で性技を仕込め、と言われた子ども。  施設育ちの……身寄りのない梓。  彼が暴力団の抗争に、使われるというのだろうか。    浮かんだ疑問を、漆黒はすぐにまさかと振り払う。  こんな子どもをどう使うというのか。  情報が少なすぎるゆえに、なにもかもを繋げて考えすぎている。  涼香の情報と梓とはなんの関係もない。  けれど、否定する側から、もしかしたら、という疑念も湧いてきた。    梓自身は知っているのだろうか。  尋ねれば、答えてくれるだろうか。  ……だが彼に訊くのはまだ早い。  梓がもっと、漆黒にこころを開くまでは、待つべきだ。    梓が真実、この暴力団の一件になにか関わりがあるとしたら、どう利用すべきか。  梓をどう使えば、淫花廓の裏を暴くことができるのか……。  思考はそこで行き止まり、漆黒の舌の上には苦みだけが残る。  タバコの苦みとは違い、その味に慣れることはできそうになかった。 「き、気持ちよく、ないですか……?」  不意に尋ねられ、漆黒は意識を引き戻された。  ハッと目線を落とすと、子犬のような黒い瞳にぶつかる。  梓はこすこすと手で漆黒の牡をこすりながら、ぺろりと鈴口を舐めた。  一生懸命奉仕したにも関わらず、漆黒のそれが中々勃ち上がらないので不安になったのだろう。彼の瞳は揺れていた。  余所事を考えていた、とも言えずに、漆黒は苦笑をひらめかせる。  それから梓の小さな頭を手慰みのように撫でて、 「もう一回、先っぽを咥えてみろ」  と促した。  梓が口を大きく開けて、じゅぶ……とカリの部分をしゃぶる。  最初に教えたことを覚えていたのか、裏筋をちろちろと舐めてきた。たどたどしい愛撫が可愛くて、これは結構男のツボを突くのが上手いかもしれないな、と思った。  眉を少し寄せた苦し気な表情は、思いのほか淫靡で……漆黒が指先を滑らせて彼の髪を耳にかけてやると、くすぐったそうに小さく笑った。 「もっと奥までできるか?」  漆黒の声に、梓がこくりと頷いた。  最初にフェラを教えたときはえずいてしまったが、その後も張り型で練習させたからだろうか、今度は上手く喉を開き、慎重に口腔に迎え入れてゆく。 「んっ……んむっ」  鼻声を漏らしながら、梓が顔を動かし始めた。  彼の口の中は温かくて……漆黒の牡がどんどんとそこで育ってゆく。  硬くなったそれを、梓が一度、口から出した。  そして、漆黒の怒張を確かめるよう、両手でなぞって。 「き、気持ちいいですか?」  と控えめに尋ねてきた。 「ああ」  漆黒が頷くと、梓が笑った。  満ち足りたような笑みを、こぼして。  梓がまた、奉仕を続けた……。             

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