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第19話

(あずさ)。もういいぞ」  男の声と同時に、口の中から熱い塊を取り上げられた。  唾液の糸を引いて抜き出された剛直は、隆隆と勃起している。  梓の口淫で勃ち上がったのだと思うと、嬉しかった。    漆黒(しっこく)に手招かれ、梓は屈めていた上体を起こし、再び彼と向かい合わせで太ももの上に座る。  背中に腕が回された、と思った瞬間、するりと体勢を入れ替えられた。  気付けば梓はベッドに横たわり、()し掛かって来る男を見上げていた。  漆黒の顔が、近付いてくる。  梓が目を閉じるのと、唇が触れあうのは同時だった。  ちゅ、ちゅ、と啄むようなキスが降って来る。  梓は両手を伸ばして、男を抱き寄せた。    口づけをしながら、漆黒の指が梓の後孔を探る。  先ほど散々弄られたそこは、すぐにほころんでヒクヒクと蠢いた。  その、すぼまりに。  ひたりと、熱いものが当てられた。   「挿れるぞ?」    その言葉に、ぞくりと腰が震えた。  (おそ)れなのか快感なのか、自分のことなのによくわからない。  梓自身の唾液で濡れている男の先端が、ローションでぬめるそこを、割り開いた。  唇から浅い息が漏れた。  体が強張る。  緊張に硬くなった梓の目元を、漆黒が指の背でくすぐるように撫でてきた。 「梓」  バリトンの声が、梓を呼ぶ。  こつん、とひたい同士がぶつかった。  漆黒さん、と梓は男の名を呟いた。その囁く音は掠れて……けれど漆黒は返事をする代わりに、くしゃり、と目尻にしわを寄せて笑った。  男らしく整ったその顔が、やさしくゆるむのを。  梓は……間近で見上げた。  キスをしてほしい、と、唐突に思った。  思ったと同時に、唇が与えられた。  ひたいに。目尻に。頬に。鼻の頭に。顎先に。  そして、唇に。  ちゅ、ちゅ、とバードキスが降って来る。  その感触が、くすぐったくて……嬉しくて。  梓はホッと、吐息した。  ちからが抜けるタイミングを計っていたのだろうか。  亀頭部分が、ぬく……と媚肉を掻き分けて入り込んできた。    指と玩具で教え込まれた悦楽を生むポイントに狙いを定めて、大きく張り出したエラの部分がそこをこすりあげる。 「ひっ……」  肩を竦めた梓を、小さく笑って。  漆黒が、淫靡に腰を揺らした。  くちゅり、くちゅりと密かな水音を立てながら、浅い場所で抜き差しが起こる。 「あっ、あっ、あっ、あっ」  男の動きに合わせて、切れ切れの嬌声が零れた。  背中が弓なりに反らされ、ベッドから浮き上がる。  無意識に逃げようとする体を、漆黒が抑えて。  徐々に徐々に奥まった場所へと侵入してきた。  痛みは、まったくなかった。  ただ、漆黒の牡で中がいっぱいで……それが苦しかった。  梓の内側の熱と、漆黒の欲望の熱が混ざり合い、いま、同じ体温になっていた。  はふ……と息を吐いた梓の、白い腹を漆黒がてのひらでさすった。 「わかるか?」  問いかけられたその意味を考える前に、梓は頷いていた。  こくこくと涙目で頷きながら、シーツを固く握る。 「し、漆黒さんが……僕の中に、居ます……」  泣きそうな声でそう言った梓へと、漆黒がまた笑う。 「可愛い言い方をするじゃないか」  甘い声で囁いて、漆黒が梓の手の甲をとんと叩いた。 「掴むなら、俺の背中にしてくれ」  言いながらシーツから指をはがされ、漆黒の背中へと手を回される。  ひとと抱き合うのはこれが初めてで……作法もよくわからぬままに、梓はさらりとした襦袢の生地をきつく握った。    漆黒の背を抱き寄せる形となり、男の腰の角度が少し変わる。  その拍子に更に奥へと進まれ、ごりゅ、と中を擦られた。 「ああっ」  ビクン、と肩が跳ねる。  梓はおかしい。  苦しいのに、気持ちがいい。  下腹部が、無意識に揺れた。 「もう少し進むぞ?」  もういっぱいだと思ったのに、男がそんなことを言って、本当に肉筒の中を進んできた。 「し、漆黒、さんっ、も、もう……」 「痛いか?」 「い、痛くはないけど……おなかが、いっぱいで……やぶれそうです……」 「破れねぇよ、バカ」  こめかみに、ちゅ、とキスをされて。  目尻に浮かんだ涙を舐めとられた。    梓の後孔が、男の形に広がっているのがわかる。  ひくひくと蠢いて、漆黒の牡へと絡みついて、締めつけている。    ずりゅ……。  ローションのぬめりを借りて、最後は一気に挿し込まれた。 「……っっっ!」  張り型では届かなかった場所に、先端が触れて。  声もなく梓は悶えた。  はっ、はっ、と息を切らす梓を、やわらかく抱きしめて。 「全部入ったぞ」  漆黒が、甘い声でそう言った。  全部……一体、どの部分までが男で埋まっているのだろうか……。  こんなに、漆黒の熱で満たされて。  梓は大丈夫なのだろうか……。  不安が、ひたり、と押し寄せてきた。  不意に泣きたくなって、梓は男の肩口に顔を埋めて唇を噛んだ。  不安の正体が、いま、くっきりとした形を作ろうとしていた。    いけない、ダメだ。  目をぎゅっと閉じて、梓はそれを追い払おうとする。 「梓? 大丈夫か?」  漆黒の手が、やわらかく梓の頭を撫でてきた。  梓が恐る恐る顔を上げると、男がくしゃりと笑う。 「おまえのここは、俺をちゃんと受け入れてる。良い子だな、梓」  よしよしと、子どもにするように褒められて。  漆黒の唇が、梓のそれに重なった。  舌を吸われ、梓も吸い返した。  もう何度もキスを交わしているから、タバコの苦みも曖昧だ。   唾液も混ざり合い、男の舌がもたらすものは、甘さしかなかった。  やさしく、官能的な口づけの合間で。  梓は絶望するように、思い知った。    この男が好きだ、と。  漆黒に、恋をしてしまった、と……。  どうしよう。  どうしていま、それを知ってしまったのだろう。  こんな、会って間もない年上の男に、恋をするなんて……。  自分はなんて、間抜けなんだろう……。    どうしようもない感情に、こころを揺さぶられて。  梓は漆黒の頭を抱き寄せた。  角度を変えながら、何度も唇が合わさる。  男を迎え入れている体の中心から、じわじわと快感が生まれていった。 「動くぞ、梓」  口づけの合間に、短く囁かれて。  梓は泣きながら、頷いた……。    

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