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第22話

 ごし……と手の甲で唇をこすった。    昼食を終え、漆黒(しっこく)の部屋に戻って来てから歯磨きも済ませ、念入りに洗ったのに。  あの明るい髪色をしたピアスの男にここを舐められた感触が、なかなか消えないのだった。  気持ち悪い、と思う。  水に濡れた唇を、ごしごしと何度もこすって……(あずさ)は洗面台の鏡を見た。  こすりすぎたのだろうか、いつもより色味の濃くなった唇が映っている。どこも汚れてはいない。けれど……あの男の舌が、確かにここに触れたのだった。 「梓? どうした?」  洗面所から出てこない梓を訝って、漆黒が顔を覗かせた。  梓は慌てて振り向くと、 「な、なんでもありませんっ」  と首を横に振った。  漆黒の、鋭い双眸が、じっと梓を眺めて……。  彼は、指に挟んでいたタバコを、シンクの隅に置いてあったガラスの灰皿に押し付けて火を消した。  ふぅ、と煙を吐き出した男が、梓を手招く。  梓がドアの方に歩み寄ると、大きなてのひらで両頬を包まれた。  赤くなった唇を。  タバコの味の、舌が舐めた。  驚いて肩を引いた梓を、目だけで笑って。  ちゅ、ちゅ、とキスが与えられた。 「あんな、犬以下の男に舐められたことなんて、忘れろ」  バリトンの声が、口づけの合間に囁く。  梓は……男の苦いキスに溺れた。 「歯磨き粉の味だな」  くしゃり、と目元にしわを寄せて。  梓の好きな笑顔を浮かべて、漆黒がそう言った。  キスをしながら、ベッドまでの距離を移動する。  漆黒の手は器用にするする動いて、マットレスに横たえられたときには梓はもう全裸だった。  和装の漆黒とは違い、ボタンのたくさんついている服を着ていたのに……。  魔法のような手は、服を剥ぎ取っただけではない。  梓の感じる場所をついでのように刺激してくるので、漆黒の触れた場所から、じんじんとした熱が肌の上に広がってゆくのだった。  少し硬い感触の指の腹が、胸の粒を摘まんだ。  あ……、と吐息のような声が漏れる。  くりくりとこねくり回されるだけで、そこは容易く膨れ上がった。  漆黒に抱かれるまで梓は、乳首はただ胸についているだけのものと思っていた。女と違って、授乳の機能もない、ただの飾り。  小さなその粒が……こんなに感じるなんて……。  木の実のようなそれを弄られている内に、梓の性器もはしたなく泣き出してしまう。 「そのうち、乳首だけでイけるかもな」  梓の反応を、そんなふうに言葉にして。  漆黒がまた、深いキスをくれた。  梓は、その舌の動きに応えながら、男に教えられた通り、手探りで指を下腹部へと伸ばし、上になっている漆黒の着物の生地を掻き分け、股間のふくらみをさすった。  受け身でばかりいてはいけない。  梓からも動いて、漆黒に気持ち良くなってもらわなければ……。  梓の(つたな)い愛撫を唇の端で笑った男が、オイルを手に(まぶ)して、梓の後ろを探る。  自分のそこがはしたなくヒクヒクと蠢くのがわかった。  後孔で感じる強烈な快感も、梓は漆黒に教わった。  男の節の高い指で中をこすられると、腰が勝手に跳ねるし、漆黒の大きなペニスを突き入れられると、もうそれだけで達してしまうのだ。  気持ちいいことを知っている体は、期待に震える。    梓は今日もまた、貫かれた瞬間に白濁を放ってしまった。  梓の恥態を、漆黒は。 「いい子だな、梓」  と言って、バリトンの声で褒めてくれるのだった。  漆黒が一度逐情する間に、梓は何度もドライでイかされた。  へとへとになって横たわる梓を、同じく寝転んだ漆黒が、向かい合わせにぎゅっと抱きしめてくれる。  後ろには、萎えてもなお大きな彼の牡がまだ挿入(はい)っている。  梓は漆黒の胸に頬をつけて、呼吸を整えていた。  筋肉の張りを感じる彼のそこは、すでに穏やかに上下している。  梓は行ったことがないけれど、淫花廓にはトレーニングルームがあり、見苦しい体型にならないようにと漆黒はそこで体を鍛えていると話してくれたことがある。  剣道場などもあるようで、梓も会ったことがある青藍と、よく手合わせをするとのことだった。  梓は漆黒の道着姿を想像し……きっと格好いいのだろうなと思った。  漆黒が竹刀を振っているところを、いつか見てみたい。  いつか、と。  当然のように未来のことを夢想している自分に気づき、梓は慄然とした。  そんなもの、叶うはずがないのに……。 「梓」  漆黒の声が、直接肌を震わせて伝わった。 「は、はい」  目線を上げると、男の顎髭が見える。  密着しすぎているため、この角度では彼の顔までは窺えないのだった。 「梓。おまえ、ここから出た後は、どうなるんだ?」  こつりと浮き出た喉仏が動いて。  不意に梓へとそう問いかけてきた。  まさかそんなことを聞かれるとは思っておらず、梓はびくりと体を強張らせた。  梓の動揺を宥めるように、漆黒のてのひらがゆったりとした動作で頭を撫でてくれる。 「梓」 「……は、はい」 「おまえ、やくざと関わりがあるのか?」 「…………」 「鬼頭(きとう)組か?」 「な、なんで……」    鬼頭組、というワードを出され、梓は狼狽した。  なぜその名を、漆黒が知っているのか……。  楼主からの情報だろうか。  俄かに落ち着きをなくした梓の耳に、ふぅ、と大きなため息が落ちてきた。  男の胸に深く抱き込まれ、梓は身動きがとれない。 「鬼頭組とおまえは、どんな関係なんだ?」 「…………」 「おまえ、施設育ちだと言ってたな?」 「……はい」 「その施設が、鬼頭組と繋がってんのか」 「……はい」  確信的に問われ、梓はぼそぼそと呟く声音で返事をする。  これ以上は、訊かないでほしい。  梓はそう願った。    しかし漆黒は、口を噤んではくれなかった。   「梓。おまえ……」  逡巡するような、空白を挟んで。  漆黒がそれを、梓に問うた。 「鬼頭組に、使われようとしてるんだ?」    

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