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第52話
テーブルに並ぶ、楼主の差し入れてくれたご馳走の数々を後目 に、続き部屋に敷かれた布団の上へと、漆黒は梓の細い体を押し倒した。
どうぞ使ってくださいとばかりに整えられた布団や……小瓶に入った香油などは、あまりに準備が良すぎて……普段であれば笑ってしまうところだが、それをする余裕も、いまの漆黒にはないのだった。
反らされた白い首筋。
そこに唇を這わせ、強く吸う。
ひくん、と可愛い震えを見せた梓に、劣情がまた掻き立てられる。
可愛い、可愛い梓。
真っ白で、真っ新で、純真な梓。
いつのまにこんなに魅かれていたのだろう。
最初はただの、子どもだったのに。
警察官として淫花廓へ潜り。
潜入捜査をする内に、漆黒はおのれが何者なのかを見失った。
男娼なのか。警察なのか。
先の見えぬ二重生活に疲れ、境界が曖昧になってゆく。
梓と会ったのは、そんな折だった。
細い体で。
古びた服を纏って。
不安そうな目で、それでも漆黒を見つめて頭を下げてきた子ども。
誰よりもつらい立場にあったくせに、最後の最後まで漆黒に寄り掛かってこなかった梓。
その彼を、まもりたいと、思った。
梓を連れ戻して、この腕の中に閉じ込めて。
嫌と言うほど甘やかしてやりたいと、思った。
それが叶うならばもう。
自分が何者でもいいではないか、と。
梓を抱きしめることができるならば。
漆黒は、ただ、ひとりの男として梓の隣に立てる存在であればいい、と。
何年も、鬱屈を抱えて生き続けてきた漆黒に。
そう気付かせてくれた、梓の強さと。
同じだけの危うさ孕んだ、脆さを。
漆黒はいま、両腕で大切に抱擁した。
梓。
可愛い可愛い梓。
「梓。愛してる」
耳朶を吸いながら囁くと、梓が首筋までも赤く染めて、頭を横に振った。
「や、やめてください……」
潤んだ、仔犬のような瞳を泣きそうに歪めて。
梓が耳をてのひらで塞ぐ。
「どうしてだ。いままでおまえにひどいことをした分、俺に挽回させてくれ」
梓の手の甲に唇を落とし、漆黒はその細い手首を掴んで少し強引に退けさせた。
「も、もう、壊れる……壊れる、から」
漆黒の牡はまだ挿入していないのに、どこが壊れるというのだろうか。
梓の言葉に首を傾げて……漆黒はふと先ほどの梓のセリフを思い出した。
漆黒の告白に、耳が壊れた、と言ってはいなかったか。
思い至ると同時に、激しいまでの情欲に漆黒はぶるりと震えた。
「梓。挿れていいか?」
充分にほぐした後孔から指を抜いて尋ねると、仰向けに横たわる梓がこくこくと何度も頷いた。
立てた膝を、自分からおずおずと開いて。
梓が両手で尻のあわいを、左右へと広げた。
その、慣れた仕草とは裏腹に、彼の顔は恥じらいの色を浮かべていて。
桜色の唇をもごもごと動かして、梓が漆黒を誘った。
「い、挿れてほしいです……」
真っ赤な顔のままで、いじらしいことを口にした梓に、たまらなくなって。
漆黒は小さな唇を奪った。
深く重ね合わせて、舌を絡める。
梓が鼻にかかった吐息を漏らした。甘いその声に煽られるように、漆黒は猛った欲望の先端を、香油でぬめる孔へと押し当てた。
狭 まる襞を押し広げ、ぬくっ、と張り出したエラ部分を侵入させた。
梓のそこが悦びを示して、熱くやわらかく迎え入れてくれる。
一番太い部分を飲み込むと、残りはずりゅんと一気に入った。
ビクッ、ビクッ、と痙攣を見せた梓の腹部が、淫靡に波うつ。
その小ぶりの陰茎は勃起したままで。
梓は挿入されただけで、ドライオーガズムを極めたのだった。
可愛くて、いやらしい体。
漆黒が一から開いた、漆黒のための体だ。
「梓」
熱っぽい囁きが、無意識に漏れた。
はぁはぁと呼気を乱して絶頂を味わっている梓の、細い足を両腕に抱え上げて。
漆黒は腰を使い出した。
強すぎる快感に、梓が背をシーツから浮かせた。
悶えるように逃れようとする彼を、押さえつけて。
漆黒は梓を貪った。
手加減なんかはできなかった。
漆黒は一番深い場所まで、梓を穿った。膝が布団に沈み込む。シーツの擦れる音が部屋に響いていた。
パンッ、パンッ、と肉のぶつかり合う音が、そこに混じる。
梓の唇からは間断なく喘ぎが漏れていた。
目元を色づかせた彼の表情は、普段からは想像もつかぬほどに艶めいていて。
清純な梓にこんな顔をさせているのが自分だという事実が、漆黒の欲望をさらに煽った。
嬌声を放つ梓の指が、シーツをぎゅっと握りしめている。
漆黒はその手を包むと、ちから任せに指をはがした。
「梓。しがみつくならこっちにしてくれ」
声とともに、彼の腕を持ち上げ、自身の背中へと回す。
梓が生理的な涙をこぼしながら、がむしゃらにしがみついてきた。
肩甲骨の辺りに、丸い爪の食い込む感触がある。
漆黒は梓に圧し掛かるように、上体を倒したままで梓の最奥部をぐりぐりと刺激した。
「ああーっ、あっ、あっ」
悲鳴のような、喘ぎを放って。
梓の鈴口からぴゅるっと白濁が飛んだ。
漆黒を締め付けているそこが、激しい蠕動を見せる。
一度動きを止めて、襲い来る快感の波をやりすごした漆黒は、再び腰を使い始めた。
漆黒の動きに合わせて、梓のペニスが揺れる。
突くたびに少量の精液が押し出されていて卑猥だった。
「梓、梓っ」
「あっ、あんっ、あっ、し、漆黒さんっ、だ、だめっ、また来るっ、あっ、ああっ」
イきっぱなしになっているのだろう。敏感な体をくねらせて、梓は漆黒に抱きついたまま喘ぎ続ける。
「漆黒さんっ、す、すきっ、すきですっ」
呂律の怪しい口調で、梓がそう告げてくる。
可愛い可愛い梓。
この子に出会えて良かった。
漆黒は深い喜びを噛みしめながら、梓へとキスをした。
「梓。愛してる」
「ぼ、僕もっ、すきですっ、あっ、あっ、イ、イくっ、で、出ちゃうっ」
「俺も、出していいか」
「は、はいっ、はいっ。ぼ、僕で、イってくださいっ」
ぎゅううっと梓の肉筒が窄まって、漆黒の牡がそこで愛撫される。
イく、と思った瞬間、梓の肢体が大きく跳ねた。
漆黒も今度は我慢せずに、欲望を迸らせる。
勢いよく飛んだ飛沫が、梓の内側を濡らし、それを悦ぶようにうねうねと後孔が収縮した。
恍惚の目で天井を仰ぐ梓へと、漆黒は口づける。
ちゅ、ちゅ、と唇を吸っていると、やがて梓の舌が応えだした。
「梓。好きだ。愛してる」
漆黒の囁きに、梓がぼっと頬を赤らめて、耳を塞いだ。
「こ、壊れるから、やめてくださいって、言ってるじゃないですか」
少し怒ったような表情も可愛くて、漆黒は笑いながら梓の瞼にキスをした。
「おまえの耳は正常だろ。俺はいま、おまえを口説いてるんだから」
「み、耳じゃなくて……」
梓が耳を押さえていた手を、漆黒へと差し伸べて。
両側から頬を包んでくる。
ほんの少し頭を持ち上げた、梓が。
ちゅ、と顎先にキスをして。
眉尻を下げた、困り顔で、微笑んで。
「心臓が、壊れそうです」
と、小さな声で、伝えてきた。
漆黒は梓の頭を掻き抱いて、ごろりと布団へ寝そべった。
胸に、深く深く梓を抱き寄せて。
漆黒はいとしさを込めて、囁いた。
「それは困る。俺のためにも、長生きしてくれ。梓」
腕の中の、梓の体が少し強張った。
自らのいのちを懸けて、親友を救おうとした梓。
自分のいのちが、理久よりも軽いと思っていた梓。
その梓が、泣き笑いの表情で、
「はい」
と頷いた。
「漆黒さんと一緒に、生きていきます」
梓の言葉に、漆黒の目に熱いものが込み上げた。
胸に押し付けている梓の頬も濡れている。
間に合ったのだ、という安堵が、いまさらながらにせり上がってきた。
漆黒は、間に合った。
梓は喪われなかった。
いま、こうして漆黒の腕の中に居てくれる。
漆黒はしあわせを噛みしめながら、もう一度梓へと唇を重ねたのだった。
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