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表情が豊かと言えど、出会ってから一度も泣いている姿を俺は見たことがない。
そんな彼の泣いているであろう気配につられて目の奥が、鼻の奥が熱くなる。
「クロちゃん、クロちゃっ……」
泣きたかったわけではないのに、目からボロボロと涙があふれだしとまらない。
肩が震えて、息が詰まる。
「なん、で。なんでだよっ」
とびらの向こうから声が聞こえた。
ずっとずっと、聞きたいと思っていたその声は掠れており、くぐもって聞こえた。
「なんで、龍まで泣いてるんだよ!」
鈍い音とともに、寄りかかっていたとびらが揺れた。
「そりゃあ、クロちゃんが泣いてるからだよ」
「龍まで泣いたら、意味ない」
「ははっ、本当だね」
こうして会話ができていることにどれだけ俺が安心しているかなんて、きっとクロちゃんは知らない。
「でも、泣きたいときは泣くのが一番なんだってね」
そう言葉にしたあと、とびらの向こうから俺の名前を呟く声が聞こえた。
かと思うと背後で金属音が聞こえたため振り向くと、今まで閉じられていた扉がゆっくりと、ようやく開かれた。
電気も点けられていない真っ暗なその向こう側にいたのは、目元を赤く染めた幼馴染の姿だった。
俺と目を合わせた彼はなにか言いたげに唇を震わせるも言葉が放たれることはなく、下唇を噛んだかと思うと深く俯いてしまった。
そんな幼馴染の肩に手を添え顔を覗き込もうとしたその瞬間、眉を下げ、顔をくしゃくしゃに震えた両腕を伸ばし俺の体に抱きついてきた。
肩に顔を埋めこらえることのできない声、涙をこぼす姿に再び涙があふれた。
まるで小さな子供のように二人で声を上げては涙をこぼし、疲れ果てては自然とその場に崩れ眠りへと落ちていった。
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