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目を覚ますと、見慣れない景色の中に俺はいた。
寝返りを打ってみると、幼馴染の寝顔がすぐ目の前にある。
目の下にはクマが、まぶたも腫れているところを見ると、一緒になって泣いた俺のまぶたもきっと腫れているんだろう。
そんな彼のまぶたを親指の腹で優しく撫でている
と、その目が一度、まばたきをした。
重いであろうそのまぶたをゆっくりと持ち上げ、眠そうに目だけを動かし辺りを見たかと思うと最後に俺を視界に入れた。
「……りゅう」
腕を伸ばし俺の体に抱きついて、胸に顔を埋めた彼の肩がかすかに震えていた。
「クロちゃん、俺がずっとそばにいる。嫌だって言っても、離れてあげないから」
「誰が、嫌だなんて言うか」
震えた声で放たれた言葉に、胸の奥が熱くなる。
「昨日、来てくれてありがとな」
ぽつりぽつり、と放たれた言葉を最後に、彼は再び眠りの中へと落ちていった。
その後、また親父がやってきてクロちゃんが俺と一緒に住むことになったり。
かと思うと中学生になって一人暮らしを始めたり。
そして総長と出会って、その総長が入院して。
やっと目を覚ましたかと思うと──
「ん……」
揺さぶられ、眠りの中に落ちていた意識が浮上する。
重いまぶたをゆっくりと持ち上げてみると、すでに辺りが明るくなっていることがわかる。
そして視界の端に見えるのは真っ白な髪だ。
「また来たんだ?」
「黒滝についてわかったことがあるからな」
いつの間にか地面に落ちてしまっていた新聞を拾うこともせず、勢いよく傍にしゃがみ込んでいた白柳へ顔を向ける。
眉間に皺を寄せ、険しい表情だ。
「仲間の一人が傘も差さないで道の真ん中で座ってる黒滝を見かけたらしい」
「……で?」
「その黒滝に話しかける青木葉がいたって話だ」
「青木葉って」
「お前も覚えてるだろ、黒滝を巻き込んだあのクソ野郎のことだよ」
白柳がこれほど苛立っているのも無理はない。
あの男さえいなければ総長は入院することはなかった。
記憶をなくすことだってなかった。
クロちゃんが泣くことだって、なかったはずだ。
「あーもう」
幼馴染の俺だからこそ、クロちゃんが昔からどれだけ苦しい思いをしてきたのかがわかる。
そろそろ救われてもいいんじゃないのか。
地面に落ちていた新聞を郵便受けへと押し込めば腰を持ち上げ、しゃがみ込み俺を見上げていた白柳を見下ろせば笑みを見せてやる。
「まだそこまでしかわかってないんでしょ」
「……そうだな」
「んじゃまず青木葉にあたらないとねぇ。俺に任せといてよ」
「お前一人でか?」
「もちろん。クロちゃんは俺が見つける」
未だ大粒の雨が降り続く中、白柳はなにかを言いたそうに口を開きかけたが言葉を発することもなく口を閉じ腰を持ち上げ頷いた。
クロちゃんが笑ってくれるなら俺はなんだってしよう。
例え、取り返しのつかないことになろうとも。
~第二章~ 第一話 完
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