22 / 25

~第二章~ 第二話「青木葉 宗慈」 1

 まさか本当に俺の手を取るとは思わなかった。  雨に濡れ、冷えた手を握り締めながら俺の暮らしているアパート内へと足を踏み入れる。 「シャワー浴びておいで。着替えなら用意しとくから」  俯いたまま、返事のない彼の背中を押し洗面所へと押し込めばリビングへと戻り暖房を効かせる。  寝室へ向かいながら髪を一括にしていたゴムを取り、ポケットへと押し込めば黒のスウェットを手に再び洗面所へと戻る。  そしてふと、違和感を覚えた。  脱いだであろう制服がどこにも置かれていない。  それでもシャワーの音は聞こえる。  手にしていたスウェットを洗濯機の上へ、シャワールームを覗き込んでみると学校の制服を着たままシャワーを浴びている姿が目に入り、思わず目を見開いた。  足を踏み入れ、慌ててお湯をとめたため髪と服が濡れてしまった。 「そのままシャワー浴びたら風邪引くよ」  返事がない。  けれど肩が小刻みに震えていることがわかる。  顔を覗き込まなくても、彼が今どんな表情を浮かべているのかわかる。 「黒滝くん」  名前を呼んでみると、彼の肩が小さく震えた。 「……んで、名前」 「……白狐のシロを脅すために、調べてたからね」  問いに呟くそうにそう返すと、俯いていた彼が勢いよく顔を持ち上げた。  睨むように俺を見つめる彼の手が伸びてきたかと思うと俺の胸ぐらを掴み、そのまま壁へと押し付けられた。  痛みの走る背中に少しだけ顔がゆがんでしまうが、すぐに目の前の彼を見据える。 「全部お前が! お前があんなことしなけりゃシロはッ!」 「黒滝くん」 「お前のせいで、シロがっ……」 「うん、ごめん。謝っても許されないことをしたと思ってるよ」  そう言葉を放った瞬間、黒滝くんの右腕が振り上げられたことに気がつくが避けることはせず、正面からそれを受けとめた。  左頬に痺れるような痛みが走り、一瞬ふらついてしまうがすぐに目を開き目の前の彼を視界に入れる。  もう雨に打たれていないのに。  シャワーを浴びていないのに。  彼の頬を伝う大粒のものは涙か。 「俺はお前が嫌いだ。お前さえいなけりゃ」  彼の顔がクシャリとゆがんだ。 「シロが、俺を忘れたりしなかったのに」

ともだちにシェアしよう!