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グラッツェル劇場 7
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「貴様、いったい凶器をどこに隠した?」
「さっきから何を言っているのかさっぱり分からないんですが」
「あくまでシラを切るつもりか! 黒の長髪で、肌の色は浅黒く、ラテン系の濃い顔立ち。目撃者の証言とすべて一致している!」
劇場の楽屋の一角でジョシュアは取り調べを受けていた。もっとも、ホワイト警部補は彼を犯人と決めてかかっているため、一方的な『尋問』といってよかった。
「いいか、被疑者が未成年だろうが、眉目秀麗だろうが私の目はごまかせんぞ! かつて何人もの男を騙して猟奇的殺人をおこなったのは……目を奪われるほど美しい女だった! 女は男の局部を切――」
「し、知ってます! 新聞にも載っていた事件でしょう……」
「ふん、わかっているなら早く自分のしたことを認めたらどうだ」
先ほどから同じ問答をくり返していて埒があかない。見た目のせいで因縁つけられることはジョシュアにとって日常茶飯事だったが、犯罪容疑で取り調べを受けるなど初めてだった。
「午後4時を回った時、貴様は時計を取り出して時刻を確認しただろう。犯行予告時間ぴったりにな!」
「はぁ……体調不良で席を立った友人がなかなか戻らないので時間を確認しただけですけど」
「友人だと……共犯者だな!」
ジョシュアは話が通じないことに段々と辟易してきた。アンリさえこの場にいてくれれば疑いが晴れるのだが――
『ちょっと、ここから先は立ち入り禁止ですよ!』
『それよりも、この暴漢を、押さえてもらえませんか。逃げ出さないように』
『離せよ! 自分で歩ける!』
なにやら騒がしいやり取りが廊下から響いてくる。聞き覚えのある声が聞こえた気がした。見張りの警官が慌てて室内へ入ってくる。
「警部補殿!」
「なんだ、取り調べ中だぞ」
「ナイフと拳銃を所持した暴漢を捕まえたという方が」
「なっ、なに⁉ ……わかった、通せ」
入室してきた人物にジョシュアは目を見張った。彼の明るい紅茶色の頭髪を見間違えるはずもない。
「……先生?」
「ジョシュア? なぜあなたがここに」
「それは――」
「ま、待て、被疑者と勝手に会話をするな。いきなり入ってきて……あんたは誰なんだ?」
警部補はジョシュアの言葉を遮って紳士に注意を促す。
「私はウィリアム・アルバート・モーティマー。グラッツェル劇場の支援者の1人です。支配人が私の身分を証明してくれるはず」
「なるほど。で、劇場のパトロンがここに何の用です?」
「先ほど劇場の通路で怪しい男に遭遇しまして。この男なのですが」
紳士改めウィリアムは背後に控えた人物に「入りなさい」とでも言うように視線を送った。目の下に大きなクマを蓄えた男がふてぶてしい態度で入ってきた。両脇を2人の警官に抱えられている。
ウィリアムはハンカチにくるんだ2つの凶器を警部補に差し出した。
「男のふところから出てきた凶器です。この男は拳銃で俳優の殺害を企てていました」
「これは……確かに、本物の拳銃だ……」
「そしてこのナイフを使い、目撃者の少年の口封じをしようと襲いかかりました。すんでの所で私が救出しましたが……」
当のアンリはというと、取り押さえられた犯人のすぐ後ろにいたのだが、両脇の警官が楽屋の入り口を塞いで中に入れない状態だった。
(さっきジョシュの声が聞こえたような?)
「警部補、これだけ証拠がそろえば犯人が誰なのかは明白でしょう。その少年の身元は私が保証します。釈放していただけませんか」
「し、しかし、男の共犯者の可能性もありますので……」
「知らないよ、そんなガキ。俺1人でやったことだ」
男はどうでもよさそうに警部補の言葉を切って捨てた。警部補はいよいよ頭を抱える。一瞬の沈黙の後、ジョシュアの方へ向き直って言った。
「ええと…………私の勘違いだ! すまない、少年!」
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