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 アイスを食べても乳首丸出しのままでいる聖に痺れを切らし、真壁は無理矢理そこらにあったTシャツを着せた。  暑ぃのに、と脱ごうとする聖に扇風機の風を強にしてプレゼントし、自身の鞄に手を伸ばす。 「泊まってかねぇの?」 「と、泊ま……るけど」 「?」  泊まると決め込んでいた聖の物言いに動揺し、どもってしまった。  そんな真壁を扇風機の風を顔全体で受け止めながら、瞳だけ動かして見ている。行儀悪く、食べ終えたアイスの棒を咥えて上下に揺らしながら。  見られると緊張するんですけど……と胸中で呟き鞄の奥底に沈んであった、ピンクの帽子を被ったキャラクターのキーホルダーを聖に差し出す。 「忘れないうちに返しとかないと」 「? あぁ、家の鍵? いらねぇよ」 「へ?」  予想外の言葉に軽く目を見開くと、聖の掌には同じ鍵があった。  ただし真壁と同じキーホルダーではなく、聖の鍵には麦わら帽子を被ったキャラクターがぶら下がっている。 「合鍵。わざわざ渡すのめんどくせぇから作っといた」 「あ、の、」 「これからも俺の面倒見てくれんだろ?」 「ッ、」  ニッと全開の笑顔を見せる聖を押し倒したい。  けれど、欲望のままに動いてここまで築き上げてきた関係を壊すわけにはいかない。 「……んも゙、……もち、ろん」 「うっわ嫌そうな返事」  ケタケタと笑い、聖は鍵を仕舞う。 「お前に彼女ができたら遠慮するからよ、それまでは頼む」と続けて。 「……彼女」 「おう、俺はしばらくいらねぇけどさ、お前はそんなことねぇだろ」 「俺は、」 「意外と多いんだよなー、真壁君ってどんな人なのって聞いてくる女。焦んなくてもお前ならすぐ彼女できっから、心配すんな」  よ! 意外とモテるね真壁くん!  とおどける聖に、返す言葉がなく真壁は息を飲んだ。  聖は微塵も気付いていない。まさか、目の前にいる男が自分に好意を抱いてるだなんて。  言外に「眼中にない」と言われた気分になり、浮上しかけた真壁の心は急降下した。  手の中の合鍵が、やけにひんやりと冷たく、重く感じた。

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