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「聖、昼飯は?」
眠り続けている聖の肩を揺さぶり、神谷はその可愛らしい顔に似合わぬ低い声で呼びかけた。
聖は寝起きが悪いようで、軽く揺すったくらいでは起きそうにない。次第に口調と肩を掴む力が強くなり、最後に怒鳴り声を上げようと大きく息を吸い込んだ瞬間、聖の睫毛がふるりと震えた。
「……うるせぇ、バカミヤ」
「んだとコラ」
拳骨をくらいながら、寝ぼけ眼を擦り腹に手を当てている。
ぎゅるるるると唸りだした腹の虫に小さく嘆息すると、神谷は立ち上がり「食堂行くぞ」と促した。
「お前今日寝過ぎ。昨日寝てねぇの?」
「や、別に……普通だ」
「どこが。朝から寝っぱなしじゃねぇか」
「だから別に、」
「神谷ー! 聖起きたー?」
「!」
おう、と短く答え神谷は真壁へと歩み寄る。
用を足しに行っていた真壁は行儀悪く濡れた手を振りながらそれを待つ。
「何、珍しい。ハンカチ持ってねぇの?」
「今日は聖の家から来たから……てか、聖起きてないじゃん」
「は?」
振り向けば、聖は午前中と同じように机に突っ伏していた。
ついさっきまでは確かに腹の音を豪快に鳴らしながら起き上がっていた筈。
もちろん、寝ぼけていた訳ではないだろう。
会話のキャッチボールもしっかりできていたし。
空腹も重なり、手のかかる聖の行動に苛立ちを全身で表しながら神谷は踵を返す。
「おい、飯は」
「……いらない」
「腹鳴ってんぞ」
「…………いらない」
「あっそ」
あまりに頑なな聖に対し、空腹に耐え兼ねた神谷はそれ以上の追求はやめた。
そして不安げにふたりを見守っていた真壁の腕を取り、今度こそ出口へと向かう。
「え、神谷、聖は?」
「眠てぇからいらねぇんだとよ」
「え、何で怒ってるんだよ神谷」
「るせぇ、腹減ってんだよ」
外見は可愛いくせに、どこまでも男前な神谷は文句も言わせぬ怒りのオーラを纏ったまま、真壁を学食へと引きずって行った。
「……」
真壁と神谷の声が遠ざかったことを確認し、聖はそっと身体を起こした。
「……最悪」
寝癖だらけの髪をくしゃりと掴み、大きく息を吐き出す。
今朝から、真壁の顔をまともに見れていない。
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