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 真っ直ぐに注がれる真壁の視線に気付いている筈の聖は、素知らぬ顔で新しい缶のプルトップを開けた。  無茶な飲み方をする聖を止めようと手を伸ばせば、赤くなって少し潤んだ瞳で睨まれた。 「離せよ」 「そんな飲み方したらダメだって。元々そんなに強くないじゃん、……聖ってば」 「……っせぇなー、返せよ」 「ダメだって」  勢いよく聖から缶を奪えば、彼はふらつきながら奪い返そうと立ったままの真壁の服を掴む。  真壁も奪われないようにと缶を庇い、けれど頭の隅に「聖に無理はさせたくない」という思いがちらつき、頑なに力任せになれなかったのがまずかった。 「ひじ、うわ、まっ、」  ぐいぐいと遠慮なしの力で下から引っ張られ続け、ついに真壁はバランスを崩した。 「っ、」  元々真壁よりも細い身体なうえに、酔っ払いの聖が真壁を支えることなど到底できないことで。  ふたりはビールを頭から被りながら仲良く畳にすっころんだ。 「てぇ……」 「聖、ごめん、大丈夫!?」  咄嗟に真壁が抱き寄せたため、彼に覆いかぶさる形で転んだ聖は頭を抱えて下から自身の肩を揺する男を見た。 「冷たい」 「つ、つめ? いてぇじゃなくて冷てぇって言ったの?」 「……そうだよ。ってか痛いのはおまえだろ。おれ、もろ体重かけたし」  舌がもつれるような喋り方をしたかと思えば、身体を起こして聖は真壁の下腹部に座り込んでしまった。  しっとりと濡れた衣服が互いの素肌を感じさせ、真壁はひゅっと息を飲んだ。噎せかえる程のアルコールの匂いに混じる、聖のそれと、いつもよりずっと近い距離。  否応なしに、身体の奥底からずくりと鈍い痛みのようなものを感じる。  だが、身を捩る真壁の顔を覗き込み、聖は顔にまで滴るビールを拭い、赤い舌で舐め取った。 「つめてえ」 「っ、聖……早く、降りて」  髪から滴ったビールが聖の下敷きになっている真壁の頬に落ちる。 「……っ、聖」  偶然出来上がってしまったこの状況に耐え切れず、真壁は声を絞り出す。  早く、一刻も早く聖にどいてもらわねば。  ――勃ち上がりかけた自身に、気付かれる訳にはいかない。 「タオル……」 「っ、っ!」  聖の小ぶりでキュッと絞まった臀部が移動し、まるで狙い定めたかのように真壁の半身をゴリゴリと押し潰した。  重症なのは、それが痛みでなく激しい快感をもたらしてしまったこと。

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