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聖は自身を見下ろす獰猛な獣を見上げる。
普段は目付きが悪いけれど、ふとした時に優しく緩む瞳。聖の知る人間の中でも、誰よりも優しい笑顔の持ち主。
けれど、それは今、情欲に染まりぎらぎらと鋭く尖っていた。
「な、なんだよ、真壁、……ひっ」
「……聖」
残された真壁の片手がTシャツの裾から入り込み、脇腹をなぞる。
明らかに遊びの類いではなく官能を誘うその動きに、聖の身体が強張る。
――何が彼を変えた?
――どうして突然こんなことに?
アルコールのせいで飛んでいた理性はいつの間にか正常に戻っていた。けれど、聖の脳内は混乱と疑問がごちゃまぜになり、まともな思考は影を潜めてしまった。
「んっ――!?」
真壁の顔が近付いてくる。
そう思った直後には、聖の唇に真壁のそれが重なっていた。
隙をつかれ油断していた唇は簡単に開き、厚い舌が咥内に侵入してくるのを許してしまった。
逃げ惑う聖の舌を執拗に追いかけ、捕らえ、噛み付き、吸い上げる。
「ん、まか、んぅっ」
「……は…っ」
混乱する頭で必死に逃げようと顔を逸らしてもすぐに顎を掴まれ、真壁へと向けられ口を塞がれる。
言葉を紡ぐことも、息をつくことすら許さない真壁のそれに翻弄され、聖の視界はゆらりと揺れて涙で滲んだ。
「ん、ッ!!」
舌を捕らえたまま、真壁は膝を聖の股間にぐいぐい押し付ける。
押し潰されそうな強さの中に、敏感な箇所を掠めていく僅かな快感を見つけ、聖の身体は跳ねた。
身を捩って抵抗する聖に真壁は自身の指を咥えさせ、Tシャツをめくり上げそのなめらかな肌に舌を這わせた。
「は、……ッ、」
びくり、と跳ねる身体を全身で抑え込み、咥えさせていた指をぐっと押しこんだ。抗おうとする舌を執拗に追いかければ追いかけるほどに、時折えずくように噎せながら聖の息は乱れていく。
口端からは飲み込み切れない唾液が一筋、零れ落ちた。
うっすらと浮かんだ筋肉をなぞるようゆっくり舌を這わせ、時折強く吸って赤い跡を残していく。
胸、腰、腹。
徐々に下がっていく真壁の唇に翻弄されていた聖は、次の動きに大きく抵抗した。
「やッ、めろよ、聞けって、オイ! 真壁!!」
名前を強く呼ぶとベルトを外そうとしていた手が止まり、腹にうずまっていた顔がのろりと上がる。
欲望のままに襲い掛かってきた男を直視することができず、聖はそっと眼を伏せた。
「もう、やめろよ……何なんだよ、何でこんな、」
「聖」
「何――ッ、う、ンッ」
名前を囁かれ、真壁を見上げた瞬間、熱い唇が聖のそれを再び塞いだ。
今度こそ抗ってみせようと纏められた両手をばたつかせるが、びくともしない。
脚も、真壁の下半身が覆いかぶさりピクリとも動かすことができない。
そして重なった下半身に、固い何かが当たるのは気のせいだと思いたい。
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