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『――好きで、ごめん』と。何度も、何度も囁く声が離れない。
受けるべき講義が総て終わった後に、真壁と連絡が取れないと再び嘆きながら寄ってきた神谷から逃げるようにキャンパスを出た聖は真っ先にバイト先に向かった。
連絡が取れないことも重なり、昨日の今日で家に真壁が訪れるとは到底思えない。
ならば、何も考えず仕事だけをしていたい。いつもより長く働かせてもらおう。
そう考え、夜半過ぎまでのシフトを手に入れた聖は文字通り馬車馬の如く働いた。いつもそのくらい真面目に働け、と皮肉る店長に苦い笑みを返して。
けれど、平時よりずっと辛いその勤務に根を上げて一息入れるとすぐさま、罪悪感は足元からじりじりと這い寄り聖を責め立てた。
「……っ、何なんだよ……泣きてえのはこっちだろ……!」
そのたびに、手首に残る浅黒い痕をがりがりと爪で引っかき歯を食いしばった。
身体中、朝から癒えはしない鈍い痛みに支配されているのも。
熱気が立ち込めるカラオケ店で腕まくりも半袖を着ることもできないのも。
ぐるぐると吐き気と動揺が治まらないことも。
全部全部、真壁が原因だというのに。
あんな声で、許しを乞うだなんて、ずる過ぎる。――真壁は、ずるい。
結局仕事を切り上げるタイミングを逃し、聖が家に帰り着いたのは夜中の2時過ぎ。
そのままふらふらと浴室に向かうと、シャワーを浴びて食事も取らずにベッドに倒れこんだ。
酷使し続けた身体が、悲鳴を上げている。
ゆるゆると怠い腕を伸ばしてスマホを開いてはみるものの、来て欲しいアプリの通知は1件もない。既読の有無を確認する気力はないし、正直通知のない今はもうどうでもいい。
『聖! 髪濡れたままだと風邪引いちゃうでしょうが!』
寝転んだ目に映る濡れた髪に、いつもの声が蘇る。おかんかよ、とつっこむ言葉はまどろむ咥内に押し止まり、声にはならなかった。
「……くそ、ばかが……」
連絡も取れなければ、話をすることも出来ないし、気持ちを聞くこともできないのに。
どうして、あんなことをしたのか。
あの言葉は、薄れゆく意識の中で見た夢幻だったのか。
確認も、できやしない。
ゆっくりと閉じていく瞳とともに手の力が抜け、スマホが畳に落ちた。
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