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――真壁は、自分の傍から消えるつもりではないか。
名前の消えたロッカーが、何よりも強くそれを示していた。
部長への挨拶もそこそこに掴んでいた写真をロッカーに戻すと聖は部室を飛び出した。
家にも、大学にも居ない――となれば、近くのネットカフェはどうだろうかと過ぎったのだ。
真壁は時折、誰も気付かないうちにこっそりと居なくなる事があった。そういう時は、大抵そのネットカフェに居た。
居心地が悪そうにひとりになりたかったのだと答える真壁の気持ちは、わからなくもない。人が寄り付かない外見をしているものの、面倒見の良い真壁を頼る者は多い。やたらと雑用を押し付けられ、断れないでいる姿を何度か見たことがある。
そこが真壁の美点ではあるのだろうが、心が休まる時が無いのは正直きついだろう。だからこそ、真壁を取り囲む人間は彼が姿を消しても気に留めることはなかった。
だが、今は違う。
早く真壁を見つけないと、何か取り返しがつかなくなりそうで――彼の居た場所を巡るたびに、ひどく、不安になる。
「くそばかが」
どう足掻いても、真壁は大事な親友で。
話をすることも無く失ってしまうのは、絶対に嫌だった。
友人と呼べる仲になって初めて、こんなにも連絡ひとつ取らない日々が続いて。
焦燥と静かな怒りが心の中で渦を巻いているのに、それでもなお思い出す真壁は、馬鹿みたいに良い奴で。
あの日の出来事は、あの日の言葉の真意は、いったい何だったのか。
このままでは、知ることも出来ない。
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