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「……邪魔して、すみませんでした」
ぺこりと頭を下げると、カードを握って重いガラス戸を開ける。
途端に湿気と熱気が顔に降り注ぎ聖は顔を顰めつつ店を後にした。
燦々と熱気をもたらす太陽の下で手中のカードをもう一度確認してみても、そこに刻まれた名前は変わりはしない。
家を出たら、ここが唯一の憩いの場だと言っていた。
そこを、あっさりと手放してしまう真壁。ここにも、もう真壁が訪れることはないのだろう。
また、遅かった。間に合わなかった。
聖が追って来ることを察しているように、真壁の動向は常に先回りしている気がしてならない。
カードを握り締めた手で汗を拭い、重い息を吐いてスマホを取り出した。
『真壁の家、教えろ』
そのメッセージだけを神谷に送り、自販機でコーラを買ってその場に座り込んだ。
真壁は何度も来てくれたというのに、逆に行ったことは無かったのだと今更ながらの事実に打ちのめされて。
すぐに返事ではなく、着信が来た。
コーラを飲みながらぶるぶると震えるスマホを見つめる。
間違っても着信ボタンをタップしたりしないよう、上部だけをそっと掴んで。
「……」
随分としつこかった震えはコーラが残り一口二口程度になった瞬間、止まった。
手の甲を口元にやり、けふりと込み上げるものをやり過ごす。
不在着信があったと知らせてくるスマホ。だが、通話アプリを開いたりはせずそのままメッセージを送る。
『電話はいいから、住所よこせ』
すいすいっと慣れた手つきでフリック入力をし、すぐに液晶から手を離す。
途端にまたぶるぶると震えだすスマホ。可愛らしい顔を封じ、再びあの鬼の様な形相で電話をかけているのだと想像すると、渇いた笑いが出た。
今通話した所で、何を言われるかなど知れたこと。わざわざ気分を悪くしたくないし、そんな無駄なことに時間を取られたくない。
「……ひえーしつけえー」
長い着信が止むのを待ち、再び『住所』とメッセージを送る。3回ほどそんなやり取りをした後に陥落したのは、神谷の方であった。
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