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液晶に表示された住所を頼りに真壁の家へと向かう。
件のネットカフェからバスを使って30分弱ほどの距離に真壁の住むアパートはあるという。聖の家に通い始めた頃、真壁は泊まることなく家事を済ませたら帰っていた。
時には、終電を逃したこともあっただろう。それでも、文句ひとつ言わずずっと面倒を見てくれていた。
あの時の真壁は、電車もバスもなくなった夜半過ぎ、タクシーを拾って帰ったのだろうか。それとも、バスで30分の距離を歩いたのだろうか。
我がまま放題で甘えっぱなしだったのだと改めて自覚させられ、聖はぐっと唇を噛み締めた。
「、きた」
自己嫌悪と暑さで脳内がぐるりと回ってしまいそうになったと同時に、バスが来た。
なんとなく乗り方は知っているものの、バスに乗った事は片手で数えるほどしかなく、若干の不安が募った。
前に乗った時は、真壁が誘導してくれたおかげで路線も乗り方も間違えずに済んだのだけれど。
「……どこまでポンコツなんだよ俺……」
また、真壁。
彼の動向を思い返すたびに、自分の駄目っぷりまでくっついてきて、思わず項垂れた。
発車します、と単調な声が車内に響き聖はさっと次の停留所を確認する。
目的の場所へ続く停留所が表示されている事に安堵し、座席に深く座り込んだ。長く吐き出された吐息が、彼の疲れを示している。
流れる汗のせいで額にくっついていた前髪を涼しい風が撫でていく。
茹だるような暑さのせいで背中にじっとりと滲んでいた汗がすうっと渇いていく。
ネットカフェの時もそうだったが、こうも激しい気温差が続くと風邪をひいてしまいそうでぶるりと身体を震わせながら窓の外を見つめる。
目の前に流れる見慣れた景色から、どんどん知らないものへと変わっていく。
この距離を、真壁はいつも通ってくれていたのだと罪悪が押し寄せ、聖はそっと瞳を閉じた。
『次は、○○病院前』
淡々とした機械音がそう告げたと同時に、勢い良く立ちあがって「はい!! 行きます!!」と手を挙げた。
たぶん、寝ていた。はっきりとしない頭のせいで、うまく物事を考えられないが。ひとつだけ。
ここで、降りなくては。その想いだけが、聖の中に強くあった。
「……っ、はい。もう少し座っててくださいねー」
運転士の肩が揺れているのに気付き、聖は首を傾げながらも手を挙げたままでいた。
通路を挟んで隣に座る老婦が「手は挙げなくていいのよ、お兄さん」と言ってくれるまで。
次いで、くすくすと車内に響く小さな笑い声。
聖はその頬を真っ赤に染めて俯いた。後方の席から、幼い女の子の声が「いきますじゃなくて、おりますだと思うの」と告げているのを耳にして、殊更その身体を縮こませた。
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