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 幾島の部屋を出ると、別れ際に渡されたスポーツドリンクのキャップを開けた。  そのまま、遠慮せずにごくごくと飲み干していく。  炎天下の中、水分も取らずにふらふらと歩き回ったツケだろうか。あんな風に腰が抜けたように座り込んでしまうだなんて。 「……」  真壁が居るであろう場所――残るそれは実家くらいしか思いつかなかった。  体調も優れない今、無理に見知らぬ土地に出掛けるのはどうだろうか。静かにかぶりを振ると聖はバス停へと向かう。  昨日から水分どころか、まともな食事を取っていない。焦っても現状が変わるわけでもない。  傾き始めた太陽に鼻を鳴らし、大人しく家路に着くことにしようと決めた。  よく冷えたスポーツドリンクと冷却シートが、動揺しっぱなしの脳内に落ち着きを取り戻させてくれている。  神谷に真壁の実家の住所を尋ねるメッセージだけを送り、聖はスマホの電源を落とした。  怠さを訴えかける身体を、今日はしっかりと休めてやろうと決意して。

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