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「何その顔ぶっさ」
一晩待っても神谷からの返信がなかったため、渋々キャンパスに向かった聖に放たれたのは非情な言葉だった。
ギロリと睨みつければ腹を抱えてさらに笑われた。目はどこに置いてきた、と。
シンクに置かれたピンク帽子のトナカイのキーホルダーがあまりにも哀しくて、腹が立って。涙が止まらなくなったのが昨日。
こうなりゃやけだと軽くビールを煽ったまでは覚えている。たった一口ふたくちで潰れたらしく、今朝は缶ビールを持ったままいつもの座イスで目を覚ました。当然、すべて零れていた。
起きぬけから掃除に没頭して鏡を見る間もなく家を飛び出したから、自分がどんな顔をしているかなど気にもしていなかった。
「……冷やすくらいしろよ、バカ」
「……」
ひたすら笑ってふらりと居なくなったかと思えば、ミネラルウォーターのペットボトルが目に押し当てられた。
これで、ということだろうか。視線で尋ねればずいっと掌が差し出された。
「……ケチくせえ」
「俺にまで甘えんなクソ聖」
財布から10円を取り出して掌に乗せ、間髪いれずに「住所」と詰め寄ってみた。
案の定、足りないとぶつくさ文句は言ったものの視線がゆらりと流れていく。
腫れ過ぎて一重になった瞼でぱちぱちとまばたきをしながら神谷を見つめてはみるが、いかんせん瞼が重い。目の奥にじんわりと痛みもあるし。だが、あと一押し。神谷は、きっと真壁の実家を教えてくれるだろう。
はー……と深呼吸のように長い息を吐き出すと神谷は聖を押し退けた。
「アップきついわブス」と吐き捨てて。
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