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真壁の実家は、電車で3駅離れた場所にあった。しかも、駅からバスで30分ほど揺られなくてはならないらしい。
慣れないバスも、さすがに昨日に続けて乗るとなれば手間取ることも緊張することもない。平日の昼間は乗客もまばらで、聖はシートに背を預けて息を吐いた。
――疲れた。
昨日の今日で、体調はあまりいいとは言えない。瞼も、重いし。
それでも、休んでなどいられなかった。
流れる景色をぼんやりと見つめ、手の中の紙を握り締めた。
からりと晴れた昨日が嘘のように、空はどんよりと曇りいつ雨が降っておもかしくはない。
すれ違う沢山の車にバイク、行き交う人々。色鮮やかであるはずのそれらすべてが、鉛色に見える。
「あー……飯、食ってねえや」
きゅるる、と腹の虫が盛大に鳴って空腹に気付いた。
腹をさすり、ゆっくりとまばたきをする。昨日買ったコンビニ弁当はどこにやっただろうか。
蒸し暑いこの気候で部屋に放置された弁当の無残な姿を想像し、何度目かわからない息を吐いて目を閉じた。
目的の停留所が近付くたびに、ドクドクと心臓が騒ぎだす。
実家に手掛かりがなければ、もう当てはない。
逸る気持ちなど知らぬバスはぽっかりとその口を開けて聖を誘う。慎重にステップを降りてバスを見送ると、紙と辺りを交互に見渡した。
『停留所を降りたらに右に30歩』
謎の指示通りに足を運べば、赤銅色の瓦の日本家屋が飛び込んできた。玄関には色とりどりの花が咲き誇り、快く迎えてくれている気になる。
真壁が持つふわりと優しい雰囲気にぴったりなその家の表札を確認し、息を飲んでインターホンを押した。
不安と緊張で、心臓が耳元にあるのではないかというくらいに鼓動がうるさい。
ぶるぶるとかぶりを振りながら住人を待つ。
はーい、という高い声とともに現れたのは、人の良さそうな笑みを浮かべた中年の女性。ふっくらとした頬が、どこか麻広に似ていた。
「あら。宅急便屋さん……ではないわよね?」
「は、はい。違います」
「あらあら。どうりで早すぎると思ったわ」
荷物を頼んでるのよ、と笑う女性は聖を上から下まで眺めて首を傾げた。「じゃあ、どちら様かしら?」と問いかけながら。
しっかりと話をしているのにどこか抜けたような口調が真壁そのもので、緊張が解けていくのを感じながら聖は頭を下げて自身の名前を告げた。
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