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「誰が来ても取りついだりしなくていいか、ら……」
真壁らしくない荒い口調とともに開け放たれた扉。ドアノブを掴んだまま、真壁は自身の部屋で正座をしている聖を大きく見開かれた目で見ていた。
その視線を受け取る聖もまた、ぴくりとも身体を動かさず同じような瞳を向けている。
「だから、さっきから言ってるでしょー! お部屋に通したって!」
実に呑気な真壁の母の声が階下から響くが、互いに微動だにしないふたりはただ立ち止まっている。
「よ、よう」
「なん、なんで……」
出逢って数カ月。これほど顔を合わせなかったことは一度もなく、久しぶりに見るそれに幾分か緊張したのかどちらともなくゆっくりと視線が外れていく。
強く握ったせいでジーンズに指の痕が残ってしまったが、今の聖にそれを気にする余裕はない。
「おまえと、ちゃんと、話が、」
「俺には、ない」
「は?」
外れた視線をもう一度合わせようと真壁を見つめるも、彼の瞳は聖のそれを捉えることはなく静かに伏せられてしまっている。
それでも、ここで引くわけにはいかないと強い思いが緊張感に勝り、ダン! と足を一歩踏み出した。
「俺には、あんだよ」
「俺にはない、何も」
「俺にはあるっつってんだろ!」
一歩足を踏み出した勢いのまま立ち上がり、真壁の胸倉を掴むと力任せに壁へと押し付けた。
受け身も取れず、背中を強かに打ちつけた真壁は軽く噎せながら自身を睨み上げる聖を見下ろしている。
「……逃げんなよ、ちゃんと、聞くから……」
眉間に深い皺を刻み、血走った瞳で睨み付けながらも真壁を掴む手は震えていた。
目の下にくっきりと隈が出来ているうえ明らかな疲れが見え隠れしている。
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