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「散々勝手して、心配かけて、消えるって! 何考えてんだよ!!」 「でも、できなかった」 「俺が今日来なけりゃ、明日には消えてたろ」  低い断定の言葉に、だらりと下ろされた指先がぴくりと震えた。  それには気付かずに真壁の胸倉を掴んだ状態でぶるりと大きくかぶりと振ると、聖は顔を上げた。 「許さねえからな。勝手なことしたら」 「ひじり、」 「勝手ばっか言いやがって。謝る前に、消える前に、言ってみろよ」 「へ……」 「腹ん中に溜めこんでんの、吐き出せっつってんだよ」  口を挟む間もなくぽんぽんとたたみ掛けられ、真壁は目を白黒させて脳内で聖の言葉を反芻する。  聖は、真壁の仕出かしたことに対しては何一つ問い掛けも攻めもしていない。ただ、傍から姿を消そうとしたことばかりにこだわっている。  彼に嫌われたくないが故の思い込みかも知れないが、何度も思いの丈を吐き出せと言い募る聖に、真壁の心が屈服するのはもう時間の問題だった。 「俺はだせぇとこも情けねえとこも、全部お前に見せてきた。お前も、見せてみろよ。……吐き出してみせろよ、真壁」  ちゃんと、受け止めるから――。  ぽそりと落とされた言葉に、真壁の胸がきゅう、と啼いた。  罪悪感でいっぱいだった胸に苦しさと恋しさがない交ぜになり、息が苦しくなる。そろりと手を伸ばして聖の両肩を掴み、深く息を吐く。  一言たりとも、違えないように伝えるために。 「ひ、聖……」 「おう」 「俺……聖が、好きなんだよ。ずっと。……ずっと前から」  口にした途端、じわじわと額に汗が滲む。  何度も拭ってはじっと聖を見つめるが、固まったまま動きはしないし、返事もない。

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