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 聖の肩を掴んだまま辺りを見渡してみたり忙しなくまばたきを繰り返したり、ただおろおろと気が動転している真壁を見つめる漆黒がふにゃりと揺らいだ。 「おっせぇよ、お前」 「聖、」 「こういうのは、お互い正気の時に言うもんだろ」  肩に置かれた手に自身のそれを重ね、聖はにへらと笑っている。  聖の言葉の意味することをうまく理解できていない真壁は頭上に大量の疑問符を浮かべて呆けている。  見たこともないくらいに間抜けな表情の真壁を笑い飛ばしながら、聖はその向こうずねをげしげしと蹴り付けた。  蹴りながら俯いてしまったため、聖の頬が僅かに赤く染まっていると真壁は気付かないまま、蹴られた脛を抱えて悶絶している。 「この3日、……ッ」 「ちょっとは手加減してよ、痛い」 「……」 「……聖?」  腹を抱えて笑っていた聖は突然自身の手で口を覆い、ぴたりと動かなくなった。  悪ふざけの延長か、と覗き込めば顔は青ざめ額に脂汗が滲み、僅かに震えている。目の焦点も、真壁に合うことなくふらふらと彷徨っている。  ただ事ではない様子に名前を呼び、背中をぽすりと擦った瞬間、その身体は崩れ落ちた。 「聖!?」  咄嗟に抱き寄せたものの、指一本動かすことすらままならないらしく縋るように伸ばされた手はだらりと落ちた。 「き、」 「き?」 「気持ち、わりぃ……」  みるみるうちに唇の色まで紫になり、込み上げる何かを耐えるように何度も咥内でえずくような仕草を繰り返している。  少しでも気を紛らわせることができたら、と背中を擦る手は「出るからやめろ」とやんわりと振り払われてしまい、真壁は心配そうな眼差しで苦しげな聖を見るしかできない。 「わり、」 「水いる!?」 「や、」  ずずい、と差し出された冷たいミネラルウォーターも払いのけ、聖はどんよりとした瞳で真壁を見上げてくる。  はくはくと紫色の唇が震え、小さく言葉を漏らした。 「腹、減った」と。  同時に、腹の虫が豪快な鳴き声を披露した。  それはそれは、聖の肩を抱く真壁の全身から力が抜け落ちてしまいそうなほど見事な鳴き声だった。

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