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「志摩くんは本当にいい食べっぷりねえ」
作る方も嬉しいわ、と笑顔を浮かべる真壁母にお茶碗を差し出し、3度目のおかわりを強請ると聖はこくこくと頷いた。
親指を立て、「美味しいから!」と示しながら。
何度目かわからない聖と自身の母のやり取りを半ば呆れ眼で見つめ、真壁は目の前にあるお茶をコクリと飲んだ。
青白い顔でぶっ倒れた聖は、階下から漂い始めた煮込みハンバーグの匂いにカッと目を見開き、まるでゾンビのように部屋から這い出ていった。
聞けば、この3日間まともに食事も睡眠も取っていなかったらしく。その上、炎天下の中ずっと歩き続けていたという。そりゃあ体調も悪くなる。
彼がそこまでした原因を考えると罪悪感に駆られるため、頭の隅に追いやりご飯をがつがつとかき込む聖を見つめた。
すぐに頭を冷やし、水分と塩分を摂取させたおかげか短時間で山盛ご飯三杯を食らい尽くせるほどに回復している。
子どものように頬に米粒を付けた聖を笑い、その手元に自身のお皿をズズズ、と寄せてやる。そこには、まだ手をつけていないハンバーグが綺麗に盛り付けられたままの状態であった。
「おま、おま!」
「いいよ、食べて」
「マジかよありがとう! おばちゃん飯おかわりいい!?」
両手を挙げて喜ぶ聖に頷き、真壁は白ご飯を漬物で頂いた。自分のおかずがどうこうよりも、ただただ聖が喜ぶ姿が見たかったのだが――自身の判りやすさに全身が痒くなり、真壁は黙って身を捩った。
同時に、募る想いを真っ直ぐに受け止めた聖の胸の内は、一体何を思うのか――答えを聞くタイミングを完全に逃してしまったため、真壁は諦め混じりの溜息を吐きながらきゅうりのお漬物を咀嚼した。
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