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 2日。顔を見なかったのは、たったの2日間。その短期間で、聖は少しだけやつれてしまったように見える。小さな変化に気付いてしまう自分にげんなりしつつも、その反面、執拗に可愛がりたい欲がむくむくと湧き上がってくる。  きゅっと唇を噛み、聖の腕を掴んだままアパートへの道を急ぐ。背後で、突然の動向に慌てる声が聞こえるも、足は止めずに口早に伝える。 「早く、帰ろう。聖は休んでていいから」 「何、急に」 「……たった2日で部屋散らかしまくってたでしょ」 「あ、はい」  そういえば、一昨日買った弁当はどこに行ったのだろうか――消えたコンビニ弁当を思い出しながら先を行く真壁の後頭部を眺め、聖は笑った。  気になるのそこかよ! と小さくつっこんで。  家に帰り着くなり真壁はひとまず寝てくれと聖をベッドに押し込んだ。  体調は既に回復し、眠気も無い。だから眠る必要はないと起き上がろうとすれば、血走った眼で睨みつけられたため、大人しくベッドに横たわる。  狭い部屋を忙しなく行き来しては片付けに勤しむ真壁の背中を見つめるうちに、とろとろと心地よい睡魔が襲ってきた。  ああ、自分で思ってるより疲れてたのかな――ポツリと咥内で呟かれた言葉は真壁には届かずに飲み込まれた。大きな瞳が、瞼に隠されていく。 ◇◆◇◆◇ 「……」  すうすうと寝息を立て出した聖を見下ろし、真壁はそっと手を伸ばした。  つい先日、こうして眠る聖を同じように見下ろし、隠しきれない想いを吐露した。叶わない願い。届かない想い。親友に懸想しているという罪悪感。すべてに、絶望して。  けれど、今は違う。するするとなめらかな頬を撫でると、寝ているくせに安心したのか、まるで猫のようにすり寄ってくる。  拒絶されることは、ない。  安堵の息を漏らし、真壁は眠る聖の唇に自身のそれを重ねた。  途端に笑みを浮かべた聖に愛おしさが募る。どこまで好きにさせたら気が済むの――と、のたうち回る程に。  ずぶずぶに惚れて、惚れ込んで。男同士だとか、これからどうするのかだとか、そんなこと、もうどうでもよかった。  聖が受け入れてくれて、聖が傍に居てくれて。それだけで、すべてを乗り越えられる気がした。

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