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聖が目を覚ましたのは、辺りが薄暗くなってから。
部屋に人の気配は無く、見渡してみても真壁の姿は無い。何も言わず帰る筈が無い。けれど、もし、まだ奴が無駄に気にしていたら――?
ちりちりとむず痒い焦燥感が湧きあがり、聖は勢い良く起き上がってベッドから足を下ろした。
「お?」
寝ている聖の足があった場所。そのすぐ下に足が見える。上半身はタオルケットに覆い隠されてしまっているが、間違いようもない。これは、真壁の足だ。
タオルケットを剥ぎ取ると、上半身をベッドに預けすやすやと眠る真壁の姿があった。
自分でかぶったのか、それとも聖が蹴脱いだものが偶然頭に乗ってしまったのかは判らないが、タオルケットから出てきた真壁の寝顔に聖は吹き出した。
「油断、しすぎだろっ」
くくっ、と笑って口端に垂れた涎をタオルケットで拭ってやり、じっと見つめる。
むぐむぐと口を動かしはするものの起きる気配は無い。鋭い目付きを縁取る長く黒い睫毛は震えもしない。
「せっかく男前なのに何やってんだかなあ。……ばーか」
こそりと物影から真壁に憧れる女子が騒いでいるのを見たことがあるし、実際真壁へ渡してくれとプレゼントを手にした女の子に声を掛けられたことは幾度もある。
たぶん、猫をかぶるのがすこぶる上手く人懐っこい神谷を退ければ、真壁は仲間内で一番モテるだろう。
本人にその気がないのと、目付きが悪いせいで皆近寄っては来ないが。
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