80 / 82

16

 濡れた指先は少しずつ飲み込まれ、それと同時に添えられた手は力をなくしてぱたりと落ちた。 「ひじ、ひじり」 「いいから、はやく」  息は荒く、小刻みに身体は震え、大きな瞳には零れ落ちそうなほど涙に濡れているのに――聖は両手を広げ、真壁を抱きしめ息を吐いた。  肩口に触れる熱い吐息に、真壁の中で何かがふつりと切れた。  聖の身体が大きく跳ねる箇所を撫で、押しつぶし、かき交ぜて漏れ出る嬌声を真壁の首筋に顔を埋めて堪える姿に、びりびりと身体の奥底から情欲が湧き上がる。  今度こそ、今度こそ、きちんと肌を合わせたい。心は繋がってる。だから、きっと。今度こそ。 「噛んでいいから」 「ふ、……ッ」  指を引き抜き、両手で聖の肢体を抱きしめて腰を進めた。  ゆっくり、聖が焦れるほどに、ゆっくりと。一寸の隙間なくぴたりと身体が触れ合った時には、聖の呼吸は整いもせずに浅く速く繰り返され、ぼろぼろと涙が頬を伝っていた。  その涙に、心が痛むことはない。だって、視線が、真壁を包むあたたかな腕が、好きだと伝えている。 「……あー」 「な、んだよ」 「幸せ。今、すんごい、幸せ。俺」 「……そうかよ」  やわらかく微笑む真壁の瞳からぽろりと涙が落ち、聖の頬を濡らした。  ぶっきらぼうに答えた聖は手を伸ばして目尻の涙を拭ってやり、額に汗を滲ませて脚を真壁のそれに絡めた。  俺もだよ、と。小さな小さな声で囁いて。  涙と、熱い吐息と、高鳴る鼓動。すべてが甘く、ふたりの心を満たした。

ともだちにシェアしよう!