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いちごミルクの墓①

 次の日、なんとなく顔を合わせるのが気恥ずかしくなった安達は伊豆原を避けていた。  放課後、いちごミルクを買いにいつもの自販機に行き、手に入れるまでは良かったが、後から伊豆原がやって来るのが見えた。 「伊豆原くん」  急いで自販機の横に安達が隠れたところで、伊豆原が誰かに捕まったのが分かった。バスケ部のマネージャーである南方(みなかた)という女子だ。  サバサバとしていて、女子のなかでは珍しく、伊豆原のことなどどうでも良いと思うような彼女が、自分から彼に声を掛けるのは稀なことだった。 「南方さん、どうしたの?」 「私、昨日の帰りに見てしまったの」 「何を?」 「伊豆原くんと安達くんがキスしてるところ。ねえ、二人は付き合ってるの?」  他に誰も居ない三階の渡り廊下で静かな会話が続く。安達は自販機の陰から今直ぐにでも出るべきだろうかと悩んで、結局、その場に留まった。伊豆原の答えが気になったのだ。  伊豆原の気持ちが上辺だけなら、他の人間には嘘を吐くだろうと思ったのである。 「付き合ってたら、どうするの?写真でも撮った?でも、残念だけど、俺たちは付き合ってない。お互いに好きでもない。あれは単なる遊びだよ」 「あら、そう。なら良いんだけど。気を付けてって言いたかっただけなの」  ────ああ、そうか……。 「っ……」  安達は俯きながら自販機の陰から駆け出した。 「ハル!?」  伊豆原が自分を呼ぶ声が聞こえたが、安達は無視をして階段を駆け下りた。  未開封のいちごミルクのパックを握りながら、何故、自分はこんなにも傷付いているのかと思う。 「俺は男で、伊豆原も男、好きになんてなるはずねぇのに……」  校庭の端を歩きながら、混乱した頭で安達がぼそりと呟く。恋をしていたのは自分の方だったのか?と悩む。  これまでのことを考えると一気に恥ずかしくなり、ああ、死にたいと思ってしまった。誰しもが羞恥の後に思うような、軽い気持ちのものだったが、安達の場合は、それが最悪のモノを呼んでしまった。  ────あなたは私のモノ。 「ッ……!まずい……」  安達は自分の中に別のモノが入り込んで来るのを感じた。徐々に動かなくなる身体。目だけは動き、手元のいちごミルクに視線を移す。未開封で印もない。飲み遅れたことも原因の一つだった。 「フフ、フフフフッ」  不気味な笑いを浮かべながら、他の生徒が部活動をする中、安達は校庭の花壇を手で掘った。

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