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いちごミルクの墓②

◆ ◆ ◆ 「ちょっといいかな?ここら辺で安達を見なかった?安達ハル」  伊豆原が校庭の端で休憩している男子サッカー部員の一人に声を掛けた。 「安達?」 「ほら、右目に眼帯してて、右腕に包帯もしてる」  伊豆原は周りの生徒に尋ねながら、安達の後を追っていた。唯一、彼が救われたのは安達の特徴が特殊だったことだ。 「ああ、中二病拗らせてるやつね。さっき、そこの花壇で何かやってたけど。なんか、やっぱり、あいつ気味悪いよね」 「……」  何の言葉も返さず、安達の手掛かりを探して伊豆原は花壇を見た。花は無残にも掘り起こされていた。代わりに何かが埋められているようで土が盛り上がっている。そして、花の名前が書かれていた木の板には黒の油性マジックで「いちごミルクの墓」と書いてあった。  まさかと思い、伊豆原が土を掘り起こしてみると、そこには未開封のいちごミルクが埋められていた。 『俺は一日一回、これを飲まないと死んでしまうんだよ』  伊豆原の脳裏を安達の言葉が過った。 「ハル……!」  慌てて伊豆原は駆け出した。何処に向かったのか見当もつかないまま、また周囲の生徒に聞きながら、彼が辿り着いた場所があった。  本来ならば鍵が掛かっていて開くはずのない扉、そこは力任せに壊されており、勝手に解放されていた。学校の屋上である。 「ハル!」  伊豆原が着いた時、安達は屋上のフェンスを登ろうとしていた。 「駄目だ!ハル!」  急いで伊豆原が彼の身体を掴んで止めるが、土で汚れた両手はまだフェンスにしがみ付いている。 「フフフ、この子は私のモノ」  目の前で不気味な笑みを浮かべる人間は安達であり安達ではなかった。だが、伊豆原にはハルとしての安達しか考えられなかった。ただ、彼を救うことだけを考えていた。 「駄目だ!ハルは俺のだ!誰だか知らないけど、出て行ってもらう!」 「邪魔をするな!」 「っ……!」  安達の両手をフェンスから引き離そうとしたが、その手は伊豆原の頬を強く殴った。 「ハル、戻ってきて。俺が悪かったから」  殴られて血の滲んだ唇を拭いながら、伊豆原は徐々に前に進んでくる。 「うるさい」 「聞いてたんでしょ?俺とマネージャーが話してるの。ごめん、俺はまだハルのことが好きだよ」 「う、るさい」  少しずつ安達との距離が縮まっていく。 「好きだよ。ハル、俺のこと、拒んでるみたいだったから、嘘吐いたんだ。ハルに迷惑掛けたくなかったから」  俺は好きだけれど、ハルは俺のことを好きじゃないみたいだった。ならば、周囲に勘違いされたら苦しむのはハルの方じゃないか。それが伊豆原の考えだった。 「う……る……」 「ハル」 「っ、我の力で……去りたまえ……!」 「拒まないで」  いつのまにか手に数珠を持った安達とその身体を抱き寄せる伊豆原との声が重なった。

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